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うつ病とミクログリアの過剰活性化とその影響
2025.04.252025.04.26
抑うつ、精神科・心療内科、うつ病
はじめに
うつ病は、単なる「気分の落ち込み」以上の深刻な精神疾患であり、患者にとっては心身の両面にわたる影響を及ぼします。自殺念慮や自傷行為は、うつ病に関連した重大なリスク要因として、世界中で数多くの命が失われている現実を映し出しています。
特に、うつ病患者の30%に自殺念慮が現れるという事実は、精神的な苦痛が深刻であることを示唆しています。うつ病が進行する過程で生じる脳内の生物学的変化は依然として完全には解明されていませんが、最近では「ミクログリアの過剰活性化」がうつ病と自殺の病態に重要な役割を果たしている可能性も指摘されています。
本記事では、うつ病および自殺におけるミクログリアの過剰活性化に焦点を当て、そのメカニズムと治療法について、新たな視点を提供します。
ミクログリアとは?
ミクログリアは、脳内に存在する免疫細胞で、神経系における「警戒体制」を担当しています。これらの細胞は、神経の損傷や病気の兆候をいち早く感知し、反応します。ミクログリアが活性化されると、脳内の炎症が引き起こされ、神経細胞を修復したり、死んだ細胞を除去したりするなどの役割を果たします。しかし、ミクログリアが過剰に活性化されると、神経に悪影響を及ぼし、さまざまな精神疾患や神経疾患を引き起こすことが確認されています。
近年では、ミクログリアがうつ病を含む多くの精神疾患に関与していることが示され、特にその過剰活性化が脳の構造や機能に大きな影響を与えていることがわかってきました。
うつ病と自殺におけるミクログリアの過剰活性化
うつ病の病態生理を解明するための研究では、動物モデルや死後脳サンプルを用いた解析が行われています。これまでの研究から、うつ病患者の脳内においてミクログリアが過剰に活性化されていることが示唆されています。特に、ドイツの研究では、統合失調症患者において急性期にミクログリアの過剰活性化が見られ、その後、他の精神疾患においても同様の傾向が報告されています。
ミクログリアの活性化は、PET(ポジトロン断層撮影)を用いた脳の画像解析によっても確認されており、うつ病患者においては、海馬や前頭前皮質といった脳の重要な部位での過剰活性化が観察されています。海馬でのミクログリア活性化が強いほど、うつ症状が重篤であるという研究結果もあります。さらに、抗うつ薬の治療によって、この過剰活性化が抑制される可能性があることも示唆されています。
特に、自殺念慮を持つうつ病患者においては、ミクログリアの過剰活性化が顕著であり、死後脳サンプルを用いた研究でも前頭前皮質におけるミクログリア活性化が確認されています。これらの結果から、ミクログリアの異常活性が自殺リスクを高める一因である可能性が考えられます。
ミクログリアの活性化と治療法の可能性
ミクログリアは脳内で様々な神経伝達物質の受容体を持っており、これらの受容体をターゲットとした治療法が試みられています。近年の研究では、抗うつ薬や抗精神病薬がミクログリアに直接作用し、その活性化を抑制する可能性が示されています。例えば、抗精神病薬「アリピプラゾール」は、ドーパミン受容体を介さずに、ミクログリアの活性化を抑制することがわかっています。
さらに、ミクログリアから放出されるフリーラジカルや炎症性サイトカインが抗精神病薬や抗うつ薬により抑制されることが確認されています。このようなメカニズムを理解することで、ミクログリアの過剰活性化を抑える新たな治療法の開発が期待されています。
また、Cox-2阻害薬や抗菌薬であるミノサイクリンなどがミクログリアの過剰活性化を抑制することがわかっており、これらの薬剤が新たな治療の候補となり得ます。今後、ミクログリア活性化を制御する薬剤の研究が進むことで、うつ病や自殺の予防に向けた新たな治療法が確立されることが期待されます。
ミクログリア仮説解明のためのヒト血液を用いたリバーストランスレーショナル研究
ミクログリアの過剰活性化がうつ病や自殺において重要な役割を果たす可能性が示唆されている中、ヒトにおける研究が重要な鍵となります。これまで、死後脳やPETを用いた研究が行われてきましたが、これらの方法には限界があり、より実用的なアプローチが求められています。
九州大学の精神科分子細胞研究室では、患者由来の血液を用いてミクログリアの研究を行っています。特に、iMG(ミクログリア様細胞)を用いることで、精神疾患患者の状態を評価する新たな手法が開発されました。これにより、患者の状態に応じた治療法の開発や、病態の理解が進んでいます。
結論
うつ病および自殺におけるミクログリアの過剰活性化が、病態において重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあります。ミクログリアの異常な活性化を抑えることができれば、うつ病や自殺予防に繋がる可能性があります。現在、ミクログリア活性化を制御する新たな治療法が研究されており、今後の進展に期待が寄せられています。また、ヒトの血液を用いたリバーストランスレーショナル研究により、より実用的で効果的な治療法が見つかることが期待されます。
精神疾患の治療において、ミクログリアの役割に注目することは、病態の深層に迫るための重要な一歩です。今後の研究成果が、より多くの患者にとって効果的な治療法をもたらすことを期待しています。
【参考文献】
i佐柳 友規ら(2017) 3.脳内ミクログリアの機能-日本生物学的精神医学会誌28(2)-
ii PK 11195 | Sigma-Aldrich
iii 加藤 隆弘(2016) ミクログリア研究で精神分析学・精神病理学を再解釈する試み-日本生 物学的精神医学会誌27(3)-
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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