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ナルコレプシー
2021.05.012022.06.08
ナルコレプシー
みなさんはナルコレプシーという病名をきいたことがあるでしょうか?
はじめてこの病名が提唱されたのは1880年。ジャン=バティスト=エドゥアール・ジェリノーというフランス人の精神科医が「ナルコレプシーについて」という論文を発表したのが初めです。彼は「Narco=眠り」「Lepsie=発作」という意味で、日中の耐え難い眠気にナルコレプシーと名付けました。
それから140年余り経った現在、最近ではバラエティ番組でも取り上げられるほどに知名度が向上してきた印象です。そのバラエティ番組では、“どうしても眠っちゃう女の子”というキャッチ―なタイトルでナルコレプシーが紹介されていました。そのタイトル通り、ナルコレプシーは、日中耐え難い眠気に襲われ眠ってしまう病気です。一見おとぎ話のようにかわいらしく聞こえるかもしれませんが、実情はそうはいきません。
ナルコレプシーの眠気は、健康な人が「丸三日間睡眠をとらずに過ごした後に難しい数学の問題に取り組んでいる」ときに相当するほど強力なものであるといわれています。
そして驚くべきことに、日本はナルコレプシーの患者数が世界でもっとも多い国のひとつなのです。(世界の平均罹患率は2000人に一人なのに対し、日本人は600人に一人)
意外と身近なナルコレプシー。
どのような病気なのか、さらに詳しくみていきましょう。
ナルコレプシーの概要
日中、場所や状況を選ばず起こる強い眠気の発作を主症状とする睡眠障害。レム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)の移行がうまくいかないことに伴う、入眠時の幻覚や金縛りといった副症状も多くの人に見られます。後述する情動脱力発作を伴うⅠ型の患者さんが多いといわれています。
ナルコレプシーの症状
ナルコレプシーは、全ての患者さんにみられる主症状と、一部にみられるいくつかの副症状で構成されています。
【ナルコレプシー】主症状:最低でも週に3回少なくとも3か月以上続く、日中の耐え難い眠気やそれに伴う居眠り
夜間に十分睡眠をとっているにもかかわらず、日中激しい眠気が生じます。ナルコレプシーの眠気は、大事な試験や式典の最中、あるいは食事中や運転中などであっても抗いがたいほど強いことが特徴です。短時間眠った後は比較的すっきり目が覚めることも特徴です。
【ナルコレプシー】副症状:情動脱力発作
情動脱力発作とは、気持ちが大きく動いた瞬間にふっと体の力が抜けてしまう症状を指します。発作の程度は、ろれつが回らなくなるといった軽度なものから、脚の力が抜けて地面に倒れこんでしまうような重度なものまでさまざまです。併発する場合は「情動脱力発作をともなうナルコレプシー(Ⅰ型)」と診断されます。ナルコレプシーの患者さんのうち、約7~8割がⅠ型だといわれています。
【ナルコレプシー】副症状:入眠時幻覚
寝入りばなに実際に自分が体験しているような非常に鮮明な夢(幻覚)を見ます。「寝室のドアが開いて誰かが入ってくる」「知らない人に体を触られる」といったような、感覚を伴う悪夢がほとんどで強い恐怖感を伴います。
【ナルコレプシー】副症状:睡眠麻痺
いわゆる「金縛り」です。意識はあるのに身体が動かせない状態で、入眠時幻覚と同じく寝入りばなに起こりやすいといわれます。
ナルコレプシーは、上記の自覚症状に加え、睡眠時の脳波や日中眠るまでの時間を調べる検査で診断されます。
ナルコレプシーの特徴
■ナルコレプシーと間違いやすい他の病気
ナルコレプシーと間違いやすい主な病気には、以下のものがあります。
・概日リズム睡眠障害…概日リズム(睡眠と覚醒のリズム=体内時計)が過ごしている環境の昼夜と一致しないことで、昼間に眠くなってしまう場合
・睡眠時無呼吸症候群…睡眠時に無呼吸状態が生じることで夜間の眠りが浅くなり、日中の眠気につながっている場合
・むずむず脚症候群…脚の不快な感覚によって夜間の眠りが妨げられることにより、日中の眠気が引き起こされている場合
・起立性運動障害…血液循環の問題によって、概日リズムがずれ午前中の眠気につながっている場合
・うつ病…日中の眠気がうつ病の症状である場合や、夜間の不眠からきている場合
これらは日中の眠気という点では共通しています。しかし、いずれも何らかの原因で夜間の眠気が妨げられた結果生じている症状であり、ナルコレプシーの眠気とは質が違うものと考えられます。ナルコレプシーに特徴的な情動脱力発作、入眠時幻覚や睡眠麻痺がないこともなど見分けるポイントになりますが、自己判断せず、まずは専門医に診てもらうことが大切です。
■ナルコレプシー:よく発症する年代
ナルコレプシーをよく発症する年代は10代だといわれています。
■ナルコレプシー:男女比
ナルコレプシーの罹患率に性差はほぼないと考えられています。
■ナルコレプシー:原因
ナルコレプシーの原因はまだはっきりわかっていませんが、「オレキシン」という脳内物質の欠乏による可能性が高いのではないかと言われています。オレキシンは、わたしたちの脳を覚醒した状態にとどめる役割を持っています。それが欠乏することで、脳の覚醒状態を維持できず、日中であっても睡眠の状態に傾いてしまうことがナルコレプシーのメカニズムではないかと考えられているのです。これまでの研究で、ナルコレプシーの患者さんの9割にオレキシンを作る神経細胞の異常があることがわかっています。
■ナルコレプシー:治療
ナルコレプシーの治療は、服薬と生活習慣の改善による対処療法がメインになります。
【ナルコレプシー】治療
薬物治療
日中の眠気に対しては覚醒を維持するお薬の服用が大変有効です。情動脱力発作や入眠時幻覚、睡眠麻痺についても、レム睡眠抑制作用があるお薬でコントロールすることができます。ナルコレプシーは慢性疾患ですが、適切な治療さえ受ければ、症状によってQOLを害されることなく生活していくことができます。早期発見・早期治療を通して、上手く付き合っていくことが大切です。
生活習慣の改善
規則正しい生活の維持、十分な睡眠時間の確保は症状の悪化を防ぐのに不可欠です。基本的には、薬物療法を併用しながら、どうしても眠いときは10分程度の短い昼寝を生活に取り入れることも有効だといわれています。
場合によっては、ナルコレプシーが睡眠の病気であることを周囲に理解してもらい、サポートしてもらえるような関係、環境を構築していけるといいかもしれません。
ナルコレプシーはなかなか気づきにくい病です。ですが、病気と認識できないまま過ごしていると、繰り返される居眠りが社会的な評価や自尊心の低下を引き起こし、自己実現や性格形成にも悪影響を及ぼしかねません。特に子どもの場合は周囲が気づいてあげることが大切です。
今回は身近な病、ナルコレプシーについてご紹介しました。少しでもお役にたてれば幸いです。
参考資料:堀口淳(2008)『睡眠覚醒障害の概念と病態の理解』精神経誌10巻2号
本田裕著(2002)『ナルコレプシーの研究 知られざる睡眠障害の謎』悠飛社
日本睡眠学会『ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン項目』
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