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境界知能とは?その特性・直面する困難・支援のあり方を考える
2025.08.022025.08.07
境界知能
境界知能とは?その特性・直面する困難と支援について
「知的障害には該当しないけれど、日常生活や学業・仕事でのつまずきが多い」そんなケースに該当する可能性があるのが「境界知能(Borderline Intellectual Functioning)」という状態です。
境界知能は、診断名ではありませんが、学びや働き、暮らしの中で目に見えにくい困難を抱える方たちが存在します。本記事では、境界知能の定義や特徴、抱えやすい困難、そして支援の方向性について詳しく解説します。
境界知能とは何か?
境界知能とは、一般的な知能検査(IQテスト)でIQが70〜85の範囲にある知的機能の状態を指します。知的障害と診断されるのはIQ70未満で、境界知能はそれには該当しませんが、標準的なIQ(85〜115)の範囲と比較すると、認知的な課題を抱えやすい領域にあります。
医療や教育、福祉の制度では知的障害のある方に対する支援体制は整備されていますが、境界知能の方は制度の「狭間」に置かれがちであり、支援につながりにくい現状があります。
境界知能のある方の特徴と困りごと
境界知能の方は、見た目や行動からは気づかれにくい場合が多く、周囲の理解不足によって「努力不足」や「不器用」と誤解されることも少なくありません。以下では、よく見られる特性を5つの観点から整理してみます。
1. 学習面でのつまずき
- 授業の内容の理解に時間がかかる
- 忘れやすく、反復しても記憶が定着しにくい
- 抽象的な概念や論理的思考を必要とする教科が苦手
- 成績が安定せず、自信を喪失しやすい
2. 論理的思考・問題解決の難しさ
- 問題の整理や因果関係の理解が難しい
- 計画的な行動が苦手で、場当たり的になりやすい
- 物事を段階的に考えることに苦労する
3. コミュニケーションの壁
- 比喩表現や皮肉を文字通り受け取ってしまう
- 相手の意図を読み取るのが苦手で、会話がかみ合いにくい
- 長い説明や抽象的な話を理解するのが難しい
4. 社会生活・就労の困難
- 複数の作業を同時に行うのが苦手
- 職場の暗黙のルールや人間関係の機微を読み取れない
- マニュアルや契約書の内容を正確に把握できない
- 金銭管理が難しく、経済的トラブルにつながることも
5. 感情・精神面への影響
- 努力しても成果が出にくく、自信を失いやすい
- 他人と比べて劣等感を感じやすく、自己肯定感が低下しやすい
- 挫折体験が積み重なり、抑うつ状態や不安を抱えることがある
境界知能の方が直面する具体的な課題
境界知能に該当する方は、発達や知的障害とは診断されない一方で、さまざまな場面で「支援の空白地帯」に置かれやすいのが実情です。
教育の場で
- 特別支援教育の対象とならない場合が多く、配慮が得にくい
- 一般学級では授業のペースについていけず、学力格差が広がる
- 成績が伸びず、進学や就職にも影響
職場での困難
- 業務習得に時間がかかり、ミスを繰り返しやすい
- 適応力が低く、変化やトラブルへの対応が難しい
- 職場の人間関係がうまくいかず、孤立しやすい
日常生活の中で
- 公的手続きや制度利用のハードルが高く、必要な支援にたどり着けない
- 金銭管理が難しく、詐欺被害や借金などのリスクも
- 生活習慣が不安定になりやすく、健康管理にも課題を抱えがち
支援のポイントと可能性
境界知能を持つ方は、適切な環境と理解のあるサポートがあれば、安定して日常生活を送ることが可能です。特に「見えにくい困難」に対する配慮と工夫がカギとなります。
教育支援
- 一人ひとりの学習速度に応じた個別対応
- 図や表など視覚的な教材の活用
- 繰り返し学習と具体的なフィードバックで成功体験を重ねる
就労支援
- 作業の手順を明確に示すマニュアルの整備
- 一度に複数の業務を求めず、作業を細分化する
- ジョブコーチや職業訓練による支援
生活支援
- 金銭管理のためのサポート(家計簿・口座管理アプリなど)
- 日常生活スキルや対人スキルを高めるためのトレーニング
- 福祉サービス(就労移行支援、相談支援事業所など)の積極的活用
社会として求められる視点
境界知能の方は、「グレーゾーン」と呼ばれるように、制度の隙間に位置づけられがちです。しかし、これは本人の努力不足ではなく、社会全体がその存在と特性を理解してこなかった結果とも言えます。
教育現場・職場・地域社会それぞれで、知識と理解を深めることで、本人の可能性を伸ばし、安心して生きられる環境をつくることができます。
まとめ
境界知能は、明確な障害とはされないものの、学習・就労・生活のさまざまな場面で困難を抱える可能性のある状態です。本人の努力だけでは乗り越えられない「見えにくい壁」があるからこそ、周囲の理解と適切な支援が欠かせません。
境界知能に関する理解が進むことは、誰もが自分らしく生きられる社会づくりへの一歩です。支援の「グラデーション」を用意することが、これからの医療・福祉・教育に求められています。
【参考文献】
- 平田正吾(2023)「知的障害概念についてのノート(2)~境界知能の現在~」
東京学芸大学 教育実践研究紀要 第19集, pp.99-102
https://www2.u-gakugei.ac.jp/~scsc/bulletin/vol19/19_14.pdf
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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