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閉所恐怖症の正体と向き合い方、“狭さ”が怖い理由
2025.04.052025.04.05
閉所恐怖症、限局性恐怖症、不安障害・不安症
「もしかして私も?」気づかぬうちに生活を縛る“閉所恐怖症”
「エレベーターが怖い」「満員電車で息苦しくなる」「MRIの検査台に乗るとパニックになりそうになる」こんな経験はありませんか?
それはもしかすると、閉所恐怖症(へいしょきょうふしょう)かもしれません。これは単なる「怖がり」ではなく、不安障害の一種である限局性恐怖症として医学的にも認められている状態です。
特に多くの人が「なんとなく苦手だけど、避ければ生活できるから。病気ってほどじゃない」と見過ごしてしまいがちなため、日常生活に支障をきたすまで我慢してしまうケースも少なくありません。
閉所恐怖症とは?
閉所恐怖症とは、狭い場所や閉ざされた空間に対して強い恐怖感や不安を覚える症状のことを言います。医学的には、「限局性恐怖症」や「特定の恐怖症(specific phobia)」の一種として分類されています。
主に恐怖を感じやすい状況
- エレベーター内
- 飛行機や地下鉄
- MRIなどの医療機器
- 狭い部屋や窓のない空間
- 混雑した密閉空間(満員電車、ライブ会場など)
主な症状
- 激しい不安や恐怖
- 呼吸が苦しくなる、動悸がする
- めまいや吐き気
- 発汗や手足の震え
- 「逃げられない」感覚に陥る
中には「失神しそう」「このまま閉じ込められるのではないか」と感じる方もいます。
【原因】なぜ狭い空間が怖いのか?
閉所恐怖症の原因は人によって異なりますが、大きく次のようなものが考えられています。
1. トラウマ体験
過去に閉じ込められた経験、エレベーターの中で体調を崩した経験などが、強い記憶として残り、恐怖反応を引き起こすことがあります。
2. 遺伝や性格傾向
不安になりやすい性格の方や、恐怖症の家族歴がある方は、発症のリスクがやや高いとされています。
3. 脳の働きや過去の学習
脳内の扁桃体という“恐怖を感じる部位”が過敏に反応しているケースもあります。また、ある場面で不安を感じた経験が繰り返されることで、「その空間=危険」と学習してしまうことも。
【診断基準】どこからが「病気」になるのか
アメリカ精神医学会のDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、閉所恐怖症は「特定の状況に対する極端で持続的な恐怖」として、以下のような条件が定められています。
主な診断基準(簡易版)
- 恐怖の対象が明確(例:狭い空間)
- 恐怖や不安が半年以上続いている
- 恐怖が日常生活に支障をきたしている
- 自分でも「恐怖が過剰」とわかっていても避けられない
診断は限局性恐怖症の診断に準じ、また必要に応じて他の不安障害との鑑別も行われます。
【閉所恐怖症】自己診断チェックリスト(簡易版)
以下の質問に「はい」か「いいえ」で答えてみてください。5つ以上が「はい」の方は、閉所恐怖症の可能性があります。
- 狭い空間(エレベーター、MRIなど)に入るのが強く不安になる
- 密閉された場所にいると呼吸が苦しくなったり、パニックになりそうになる
- 「逃げ場がない」と感じて焦った経験がある
- 満員電車や映画館の中央席などを避けることがある
- 恐怖や不安のせいで、予定を変更したことがある
- 自分の恐怖が「過剰かも」とは思うが、どうにもできない
- このような不安が6ヶ月以上続いている
- 人に言っても理解されず、「気にしすぎ」と言われてしまう
- 狭い空間に関する悪夢を見たことがある
- 医療検査(MRIやCT)を断念したことがある
※このチェックはあくまで目安です。心配な場合は、精神科・心療内科などの医療機関への相談をおすすめします。
閉所恐怖症との向き合い方「治療とセルフケア」
治療の選択肢
1. 認知行動療法(CBT)・精神療法
恐怖を引き起こす「考え方」や「行動パターン」を見直し、少しずつ慣れていくことで、恐怖を克服する方法です。
例:最初はエレベーターの前に立つ→次に中に少し入る→最終的に乗ってみる、というステップを踏んでいきます。
2. 薬物療法
必要に応じて、不安を和らげる抗不安薬や抗うつ薬が処方されることもあります。これは、特に日常生活への支障が大きいケースに有効です。
日常生活でできるセルフケア
- 呼吸法やマインドフルネスを取り入れて、不安を感じたときに落ち着く方法を身につける
- 信頼できる人に相談する(閉所が苦手なことを周囲に伝えるだけでも安心感につながります)
- 苦手な状況を避けすぎず、少しずつ慣らしていくことも大切
【医療従事者の方へ】適切な配慮と支援のために
閉所恐怖症の方は、MRIやCTなどの検査、手術前の控室、精神科での面接室など、「閉じた空間」が避けられない場面で強いストレスを感じます。
以下のような配慮が求められます:
- 事前説明を丁寧に行う(検査の流れや時間など)
- パニック時の対応マニュアルを準備しておく
- 家族や付き添いが同伴できるようにする
- 医療者側からも「逃げてもいい」と安心させる言葉がけも
【まとめ】怖さを理解し、寄り添うことから始めよう
閉所恐怖症は「甘え」や「わがまま」ではなく、れっきとした心の不調のひとつです。狭い空間で強い不安やパニックに襲われる苦しさは、本人にしかわからないものでもあります。
しかし、正しい知識と周囲の理解があれば、安心できる場面は確実に増やせます。自分や大切な人が閉所への不安を抱えていたら、「気にしすぎ」ではなく「つらさがあるんだ」と受け止めてあげてください。寄り添うことが、回復への第一歩になります。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「恐怖症」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-062.html - 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
https://www.ncnp.go.jp/nimh/ - 公益社団法人 日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/modules/about/index.php?content_id=1 - 日本不安症学会
https://janas.jp/ - American Psychiatric Association (DSM-5)
https://www.psychiatry.org/psychiatrists/practice/dsm - National Institute of Mental Health (NIMH) – Phobias
https://www.nimh.nih.gov/health/topics/anxiety-disorders/index.shtml
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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