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デジタルセラピーとは何か(定義と位置づけ)
2025.09.202025.09.20
デジタルセラピー
デジタルセラピーとは何か(定義と位置づけ)
デジタルセラピーとは、ソフトウェアを通じて健康改善・病気の治療または管理を目指す医療介入で、「エビデンスに基づいた」「治療的な」要素を持ちます。単なる健康増進アプリやフィットネス管理アプリとは異なり、臨床試験などで有効性が検証され、医療機器や医薬品のような規制対象となるものもあります。
多くの場合、患者自身がアプリやオンラインプラットフォームを使って症状を記録したり、治療プログラムをこなしたりしつつ、必要に応じて医師・セラピストとの連携が取れるようデザインされています。
日本における現状と規制・保険適用
調査・報告によると、日本でもデジタルセラピーの実用化が徐々に進んでいます。以下、代表的なポイントです
- 高血圧を管理するアプリ「CureApp HT」が承認を受け、保険償還の対象となった例があるなど。
- 日本ではソフトウェアとしての医療機器(Software as a Medical Device, SaMD)としてPMDA(医薬品医療機器総合機構)が規制を担当し、厚生労働省も保険償還の検討を行っています。
- ただし、全てのデジタルセラピーが保険対象になっているわけではなく、許認可・エビデンスの量・利用者負担のあり・なしなどにばらつきがあります。
臨床試験・研究における証拠の現状
有効性や安全性の根拠となる研究も増えてきており、以下のような傾向・課題が報告されています。
- 多数の臨床試験が登録され、その対象疾患は、精神疾患(うつ、不安障害等)や慢性疾患、あるいは依存症などが多い。
- 特に「脱中心型(decentralized)」臨床試験、つまり被験者が自宅等でデジタルプログラムを使って参加する形式の試験が増えてきており、安全性・モニタリング・ドロップアウト率など運営上の課題が明らかになってきている。
- 日本における文献では、欧米諸国と比較して導入が遅れていたが、保険償還や規制整備が進むことで、実際の臨床利用が増える可能性が高いとされています。
デジタルセラピーの利点(何が期待できるか)
デジタルセラピーが持つ魅力・利点を、現場の患者・医療提供者双方の観点から整理します。
- アクセス性の改善
通院が困難な人や地方在住者、移動が難しい人にとって、自宅で治療プログラムを続けられる点が大きなメリットです。 - 個別化・柔軟なケア
使用データ(症状記録、行動ログ、ウェアラブルセンサー等)をもとに、その人の反応に応じて介入内容を微調整できる可能性があります。 - 持続性の向上
日常生活の中でスマートフォン等を使ってプログラムをこなすことで、治療の継続率が改善することがある。継続することが効果発現にとって重要だからです。 - コスト効率
通院や往復の交通・時間コストを削減できたり、医療施設のリソースを効率化できたりする可能性があります。 - 補完的な治療手段としての可能性
薬物療法や対話療法と並行して使われることで、相乗効果をもたらすことが期待されます。特に軽〜中等症のケースや、予防的なケアとしての導入が考えられます。
主な課題と限界
とはいえ、デジタルセラピーが万能というわけではなく、いくつか克服すべき課題があります。
- エビデンスの質・量のばらつき
臨床試験のデザイン、対象者の選び方、フォローアップ期間などが研究によって異なり、「どの程度効くか」がまだ明確でない領域があります。 - ユーザーの継続利用の難しさ(エンゲージメント)
アプリやプログラムを始めても、途中で使わなくなる人が一定数います。その理由としては、操作が煩雑・モチベーションの低下・プライバシーへの不安などが挙げられます。 - 規制・認可プロセスのハードル
医療機器として承認を取るためには、安全性・有効性のデータが求められ、申請・審査にコストと時間がかかります。日本でもSaMDとしての位置づけや保険償還のための評価制度が整備されつつありますが、すべてのデジタルセラピーが対象になるわけではありません。 - プライバシー・データ保護の問題
健康データ・行動データを扱うため、どのデータをどのように保存・匿名化・共有するか、安全性を確保する仕組みが不可欠です。 - 利用者のデジタルリテラシーと公平性
高齢者やITが苦手な人には使いづらさがあります。インターネット環境や端末の有無などで地域間や世代間の差が出る可能性があります。
将来展望・可能性
これまでの研究や実際の導入例から、デジタルセラピーが今後どのように成長していくか、また医療現場でどのような役割を果たしうるかを考えてみます。
- 対象疾患の拡大
精神疾患だけでなく、認知機能障害、慢性疼痛、呼吸器疾患などでも応用が研究されており、日本でもその道が広がりつつあります。 - 実世界データ(Real‐World Evidence, RWE)の活用
臨床試験だけでなく、日常的な利用データを集めて効果を検証することで、より現場で使いやすい介入デザインが可能になるでしょう。 - AI・機械学習を用いた個別最適化
患者の反応や行動をリアルタイムに分析し、介入内容を柔軟に調整することで、より高い効果が期待されます。 - 政策・保険制度の整備
日本では保険償還可能なデジタルセラピーが限定的ですが、承認・償還の制度が少しずつ整備されてきているため、将来的にはより多くの人がコスト負担を抑えて利用できるようになる可能性があります。 - ユーザー中心のデザインと利用者サポート
継続率を上げるためには、わかりやすいUI/UX、初心者でも使いやすい設計、使っていて途中でつまずかないようなサポート体制が鍵になります。
臨床活用の具体例
いくつかの事例を挙げると、デジタルセラピーが「実際現場でどう使われているか」が見えてきます。
- 日本の高血圧管理アプリ「CureApp HT」は、アプリを用いて血圧の自己管理を促し、医師とのフォローアップを組み合わせた形で、保険償還対象となっているケース。
- メンタルヘルス領域では、うつ病や不安障害を対象としたデジタルプログラムに関する多数の臨床試験が行われており、その一部ではデジタルセラピー使用群で症状改善が確認されています。
- ADHDの治療で、ゲーム形式や注意力改善を目的としたアプリが承認された例も(米国などで)。
デジタルセラピーを利用する際の注意点
患者さん・医療提供者双方が利用を検討する際に心得ておきたいことを以下にまとめます。
- 自分の症状や治療段階に合ったものを選ぶこと。不適切なプログラムでは効果が得られにくかったり、逆にストレスになることもあります。
- プログラムの開発者・提供者の信頼性を確認すること。臨床試験実施歴・承認機関の承認・データ保護・ユーザーサポート体制など。
- セキュリティ・プライバシーの確認。個人データの扱い・保存先・共有先などが明示されているか。
- 利用を始める際には医師や主治医と相談すること。特に既存の治療との兼ね合いや副作用・併用療法の影響を検討する必要があります。
【さいごに】医療の未来としてのデジタルセラピー
デジタルセラピーは、テクノロジーと医療の融合における「次のステージ」と言える領域です。すべての人にすぐに適用できるものではありませんが、アクセス性・個別最適化・予防や慢性疾患管理の面で大きな潜在力があります。日本でも政策や保険制度、技術基盤が整いつつあり、これからの数年で臨床現場での活用がさらに広がる可能性が高いです。
患者さんにとっては、「自分の症状を見える化できる」「治療の主体性を持てる」「遠隔でもケアを受けられる」という点で選択肢が増えていることは大きな利点です。医療提供者にとっても、新しいデジタルツールの導入は診療の幅を広げ、効率化と質の向上の両方を実現することが期待されます。
参考文献
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0914508724002181?utm_source=chatgpt.com
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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