名古屋駅徒歩0分
大人のための
メンタルクリニック
公式ブログ
「感情労働とは何か」心を使う仕事の本質と課題について
2025.07.142025.07.14
感情労働
感情労働とは何か、心を使う仕事の本質と課題について
I. 感情労働とは
私たちは日々の仕事の中で、単に作業をこなすだけでなく、他人とのやりとりの中で自分の感情を調整しながら働いています。特に接客業、医療、教育、介護といった「人と接する仕事」では、職務の一環として“感情を管理すること”が求められます。
こうした「感情の表現」や「感情の抑制」を含む労働を、1983年に社会学者アーリー・ホックシールドが「感情労働(Emotional Labor)」と定義しました。現代社会ではこの感情労働が見過ごされがちですが、目に見えないストレスの源として、メンタルヘルスに深く関わっています。
II. 感情労働の具体像
感情労働には以下のような特徴があります。
表面的演技(Surface Acting)
内心では怒りや苛立ちを感じていても、表情や声のトーンで“笑顔”や“丁寧さ”を装う行為。
深層的演技(Deep Acting)
本当に求められる感情を心から感じるように自分を納得させて表現する行為。
いずれもエネルギーを使い、心への負荷が蓄積していきます。
III. 感情労働が求められる職種
以下のような仕事では、日常的に感情労働が必要とされます
- サービス業(飲食店、接客業、ホテル、コールセンターなど)
- 医療・介護(看護師、介護士、医師、保育士など)
- 教育(教師、講師、学童支援など)
- 公務・行政(窓口業務、社会福祉、相談支援など)
例えば、看護師が患者に安心感を与えるために穏やかな態度を取り続ける、接客業でクレームに冷静かつ丁寧に対応するなど、本心とは異なる振る舞いが求められます。
IV. 感情労働がもたらす影響
ポジティブな影響
- 共感力・対人スキルの向上➡クライアントや同僚との関係性を築く中で、繊細な気配りや柔軟な対応力が身に付きます。
- 忍耐力・ストレス耐性の強化➡さまざまな場面で感情を調整する経験が精神的な強さにつながる場合もあります。
- 顧客満足度・評価の向上➡高い感情労働スキルは業績や顧客からの信頼に直結することもあります。
ネガティブな影響
- 感情の摩耗(Emotional Exhaustion)➡内面の感情と求められる感情の乖離が続くことで、自己の感情表現が難しくなり、虚無感や疲労感を覚えるようになります。
- ロール・コンフリクト➡自分の性格・価値観と仕事で求められる役割が一致しないことでストレスが増幅。
- バーンアウト(燃え尽き症候群)➡強いストレス状態が長期間続くことで、仕事への意欲喪失、抑うつ症状、自尊心の低下などが起きる可能性があります。
- 身体症状の出現➡自律神経失調、胃腸障害、不眠、緊張性頭痛など身体的不調を訴えるケースも少なくありません。
- 私生活への波及➡職場で抑えていた怒りやストレスが家庭で爆発するなど、対人関係への影響も深刻です。
V. 感情労働の負担を軽減するために
個人ができる対策
感情のセルフモニタリング
「本当は今どう感じているか」を意識的に確認し、無理な抑圧を避ける。
リフレッシュ習慣の導入
散歩、瞑想、読書、趣味活動など、心を休める時間を日常に取り入れる。
信頼できる人との対話
上司・同僚・友人・カウンセラーなど、感情を“吐き出す”場を確保する。
マインドフルネスや呼吸法の実践
感情に飲み込まれず、今ここに集中する練習。
組織が果たすべき役割
感情労働への理解と教育
職場研修で「感情労働とは何か」「その負担と対策」について周知すること。
心理的安全性のある職場づくり
失敗や悩みを打ち明けやすい雰囲気の醸成。
休憩・業務分担の見直し
感情労働の過集中を防ぐためのシフト設計や業務交代。
社内カウンセリング・フォロー体制の整備
メンタルヘルス不調の早期発見とケア。
VI. 今後の感情労働と、人間の「共感」が持つ価値
AIや自動化が進展する一方で、人間にしかできない「感情の理解と伝達」の重要性はむしろ高まっています。顧客対応、教育、医療・福祉の現場などでは、共感的な関わりが成果に直結することも多く、感情労働の役割は今後も拡大することが予想されます。
それゆえ、感情労働を「自己犠牲の労働」にしないためにも、働く人のケアと支援体制の強化は不可欠です。
VII. まとめ
感情労働は、現代のあらゆる職場で必要とされるスキルのひとつであると同時に、大きなストレス要因にもなりえます。その負担を過小評価せず、適切な対策と理解を持つことが、健康的で持続可能な働き方への第一歩です。
今回の記事での紹介で、感情労働という視点から職場環境や働き方を見つめ直すきっかけに繋がりますと幸いです。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
一人で悩まずに、まずは一度ご相談ください
一人で悩まずに、
まずは一度ご相談ください
たくさんの方が
悩みを抱えて来院されています。
ご紹介している症状以外でも、「こんなことで受診していいのかな…」 と迷ったらまずは一度お気軽にお電話ください。