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皮膚むしり症について
2024.02.082024.02.08
皮膚むしり症
皮膚むしり症
精神疾患のなかには、一般の人から病気であると認識されていないものもあります。皮膚むしり症もそのひとつと言えるでしょう。この記事では、DSMに基づいて皮膚むしり症について説明します。
臨床像
皮膚むしり症とは、何度も自身の皮膚をむしるという精神疾患です。特にむしられることが多いのは顔面です。ただし、むしっている部分が悪化すると、その部分が治るまで他の皮膚をむしるようになります。脚や腕、体幹、手、甘皮、指、頭皮などの皮膚も対象となることが多いです。何度も皮膚をむしるため、皮膚の本来のバリア機能を繰り返して崩してしまい、重症なケースでは皮膚移植や放射線治療などの内科・外科的処置が必要になるほど、皮膚が損傷することもあります。
かつては心因性剝奪、神経性人工的擦過傷など色々な名前で呼ばれていました。また、抜毛症(脱毛状態であることが他人からも分かるほど、髪を繰り返し引き抜いてしまう精神疾患)とまとめて皮膚むしり症候群と呼ばれることもありました。現在では皮膚むしり症と抜毛症は別個の精神疾患と見なされています。
診断上の特徴
皮膚むしり症の診断上の特徴は以下の4つです。
①皮膚の損傷を招くほど、皮膚むしりを何度も繰り返している
②患者さんは皮膚むしりを止めたいと思っている。止めようと何度も試みている
③臨床的に意味のある苦痛や機能的な障害などが皮膚むしりによって引き起こされている
④皮膚むしり行為は、他の身体疾患や精神疾患、物質使用によって生じたものではない
患者さんの苦悩
多くの場合、ストレスや緊張が高まったときに皮膚むしりをします。そのことで安堵感を得られるものの、同時に恥や罪の意識も患者さんは感じています。また紅斑や色素沈着、痂皮化したびらんなども患者さんは恥ずかしいと思っています。そのため、患者さんは包帯や衣服、化粧などで傷ついた部位を隠していることが多いです。
皮膚むしり症の患者さんの半数以上が社会への参加を避けると言われています。皮膚むしり症の患者さんの約12%が自殺を企てたというデータからも、皮膚むしりや皮膚損傷を患者さんはかなり深刻な問題と認識していると言えるでしょう。発症が成人期初期から30~45歳に多いことや、平均発症年齢が12~16歳であること、さらに女性のほうが発症しやすいことなどを考えると、皮膚むしり症の患者さんがどれほど苦悩を抱いているか想像に難くないでしょう。
疫学
皮膚むしり症の一般人口における生涯有病率は1~5%と言われています。また、青年期精神疾患を抱えた患者さんの12%に見られます。
病因
皮膚むしり症の病因は明らかにされていません。
仮説のひとつとして、ストレスが挙げられます。皮膚むしりに先行して緊張感が高まりますが、皮膚むしりはそれを発散させるための行為と考えられています。ストレスには患者さん本人が意識していないものも含まれており、皮膚むしり行為を権威的な両親に対して抑圧された怒りと解釈する説もあります。
神経科学的な仮説ではセロトニン系やドパミン系、グルタミン酸の代謝などの異常が関与しているとも考えられています。
併存症
皮膚むしり症と最も併存しやすいのは強迫症です。ついで抜毛症(38%)や物質依存(38%)が挙げられます。幅はありますが、うつ病(32~58%)や不安症(23~56%)、醜形恐怖症(24~45%)なども併存しやすいです。
鑑別診断
湿疹、乾癬をはじめ、皮膚むしりが見られる身体疾患は多岐に渡ります。まずは身体疾患ではないか、徹底して確認する必要があります。
ほか、強迫症や醜形恐怖症、物質使用障害とも鑑別しなければなりません。
強迫症との違い
強迫症の患者さんの皮膚むしりは、「ウイルスが付いてしまった皮膚を取り除かなければ…」といったように汚染や皮膚異常に基づいた強迫観念の結果です。こういった強迫観念は皮膚むしり症の患者さんでは見られません。
ほか、以下のような違いがあります。
①強迫症には性差はあまりないが、皮膚むしり症は女性に多い
②強迫行為は侵入思考に駆り立てられて行われる。一方、皮膚むしり症では緊張やストレスを緩和する手段として皮膚をむしる。侵入思考の類は見られない
③強迫行為を行うことで快感を得られることはほとんどない。一方で皮膚むしり行為を行った後は不安が低減されるだけではなく、快感を得られることもある
醜形恐怖症との違い
醜形恐怖症では、外見上の欠陥をなくそうとして、あるいは目立たなくさせようと思って皮膚むしりが行われるという違いがあります。
物質使用障害との違い
メタンフェタミンやコカインなどを使用すると、皮膚の下で何かがはい回っているような異常な感覚(蟻走感)がします。こういった感覚をどうにかしようとして皮膚むしりが生じます。
経過と予後
皮膚むしり行為は精神疾患によるものであると患者さんが認識していることはほぼありません。当然、治療方法があることも知らないため、ほとんどの場合患者さんは心療内科や精神科など受診しません。
皮膚むしり症の症状は、増悪と軽快を繰り返しながら生涯続いていくことがほとんどです。女性患者さんの約半数では、皮膚むしりの量と月経周期が一致すると言われています。
治療
皮膚むしり症の治療は困難であると言われていますが、SSRIやフルオキセチン、ナルトレキソン、グルタミン酸作動性薬物などが治療の有効性を示したと報告されています。また、皮膚を物理的に保護して皮膚むしりの予防をすることや、精神療法を行うことにより根底にある緊張感やストレスに対処することも治療するうえで大切です。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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