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不妊治療と抑うつ・不安|「心の波」を見つめてみる
2025.07.082025.07.08
不妊うつ・妊活うつ、うつ病
不妊治療の「心の波」を見つめてみる
IVFやICSIの過程で、感情が大きく揺れる理由とは
- 「医学的には順調だったと言われた。でも、このままで大丈夫なのか不安」
- 「待っている時間が、いちばんつらい」
- 「何が良くて、何が悪かったのか不安で、気持ちがとても不安定だ」
これは、不妊治療を受ける多くの方が感じている、率直なこころの声の一部です。とくに体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)といった治療法に進むと、医学的なプロセスは複雑かつ緻密になり、患者さんの体だけでなく、心にも見えない重圧がのしかかってきます。
不妊治療における感情の揺らぎとは
不妊治療における感情のゆらぎは、単なる「気の持ちよう」ではありません。治療の進行にともなって、ストレスや不安、落胆、期待といった感情が、周期ごとに波のように訪れることが知られています。そしてその波は、治療のどのフェーズにいるかによって、強さもかたちも変わっていきます。
たとえば、採卵の時期。麻酔を伴う処置に対する不安はもちろん、「ちゃんと卵が取れるだろうか」という焦燥感が強まる時期でもあります。次に胚移植。受精卵の状態や着床率への期待と不安が交錯し、多くの方が、緊張のピークを迎えます。そして、最も精神的な負荷が大きいのが、判定日を待つ数日間。検査結果が出るまでの「何もできない時間」は、不妊治療における最大のストレスポイントの一つです。
医療が必要な、抑うつ状態の頻度について
また、このような過程を通じて、多くの女性がポジティブな感情を抱きにくくなる傾向があることもわかっています。治療への期待はあるものの、その裏には「またダメだったらどうしよう」「もうこれ以上、落ち込むのが怖い」という自己防衛的な感情が張り付いているからです。感情の振れ幅が大きくなればなるほど、精神的な疲労感も増し、何をしていても心から楽しめなくなる、というケースも少なくありません。
さらに、治療が不成功に終わったときには、強い心理的ショックが訪れます。努力して準備し、希望をかけて臨んだ結果に対し、「またダメだった」という現実は、大きな喪失感や無力感をもたらします。中には、臨床的に問題となるほどのうつ症状が現れる方もいます。ある研究では、治療がうまくいかなかった場合、10人中1~2人の女性が医療的な支援が必要なレベルの抑うつ状態に陥ることが報告されています。
不妊治療における、心理的影響とケアについて
実は、こうした心理的影響は、判定結果が陽性であっても例外ではありません。妊娠判定後に抑うつ傾向が見られる女性は、4人に1人というデータもあります。また、パートナーである男性側にも影響は及び、10人に1人はうつ症状、5人に1人は不安症状を呈することがあるとされています。つまり、不妊治療はカップル双方にとって、心のバランスを崩しやすい状況を長く生み出すプロセスでもあるのです。
こうした現実をふまえると、医療スタッフは単に医学的な支援を行うだけでは不十分です。患者が「今、どの段階にいて、どのような感情のなかにいるか」を読み取り、必要に応じて声をかけたり、心理的支援につなげたりする視点が求められます。
たとえば、判定日直後の患者に対しては、結果の善し悪しにかかわらず、一定期間の心理的モニタリングを続けることが有効です。さらに、必要に応じて精神科や心理士と連携し、治療と並行して心のケアを行うことが、その人の治療継続意欲や生活の質を保つうえで大きな意味を持ちます。
不妊治療は、本人の努力や気持ちの強さだけでは乗り切れない側面を持つ、繊細な医療です。だからこそ、心の不調に対するメンタルケアも含めて多角的なケアが必要です。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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