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生の本能と死の本能とは?「精神分析学の視点から」
2024.06.012024.09.03
精神分析、心理面・思考
本能とは?
本能とは、人間が生まれつき持っている衝動のことです。本能と聞くと、食欲や睡眠欲、性欲などの動物的な欲求を思い浮かべるのではないでしょうか。
食べて寝ることで活動するエネルギーを蓄え、性欲によって子孫を残します。動物的な欲求は、生き残るために必要なものだといえるでしょう。
しかし、「本能とは生き残るための欲求だけではない」という考えがあります。精神分析学を創始したジークムント・フロイトは、死に向かおうとする「死の本能」が存在し、「生の本能」と対立しているとしました。死に向かうための本能とは、どのような本能なのでしょうか。
本記事では、フロイトが考えた生の本能と死の本能の理論について解説します。
生の本能と死の本能とは?
生の本能と死の本能とは、精神分析学を創始したジークムント・フロイトが考えた、人間に備わっている根源的な本能の2つです。
人間には、無意識の本能的な欲求が備わっており、それを満たすように調整しながら、行動や言動が決定されるものとフロイトは考えました。そして、本能的な欲求には、生きるために必要な「生の本能」だけでなく、死に向かう欲動である「死の本能」があるとしたのです。
通常時は、2つの本能が融合して、適度なバランスを保っていると想定されています。しかし、バランスが崩れると精神的な問題を引き起こす可能性があるでしょう。
「生の本能」と「死の本能」という2つの本能について詳しく解説します。
生の本能とは?
生の本能とは、人間として生命を守り、子孫を残していくための本能です。性の本能や自我保存本能と呼ばれる、生きていくために必要な本能が含まれます。
性の本能とは性的な欲求であり、快感を得るために欲求を満たす「快感原則」にもとづくものです。一方で、自我保存本能は現実に適応できる形で欲求を満たす「現実原則」によります。成長にともなって、性の本能と自己保存本能が適度なバランスになるのが一般的な発達とされていました。
例えば、乳児が「ミルクを飲みたい」とぐずっても、すぐに与えられるわけではありません。時間が経てばもらえることが分かると、次第に我慢できるようになります。成長によって、快感原則だけでなく現実原則に沿うことが可能になり、適応的な行動が取れるようになるのです。
性の本能と自我保存本能の働きに違いはあるものの、生命を維持し、正常に発達していくことが目的だといえます。
死の本能とは?
死の本能とは、死へ向かおうとする欲求のことです。誕生よりも前の状態に戻ろうとする動きのことで、「タナトス」「デストルドー」とも呼ばれます。無意識的な本能であるため、言葉として表現するのが難しく、フロイトは「死」という言葉を用いて表しました。
死の本能という考え方が生まれてきたのは、フロイトが考えていた本能に関する理論では説明できない現象がみられたからです。例えば、以下のような現象が挙げられます。
- 陰性治癒反応:治療に抵抗する患者がいた/治療が進んでいるのに症状が悪化した
- フラッシュバック:第一次世界大戦後に戦争の悲惨な経験をフラッシュバックした兵士が多数みられた
- 強迫観念:自分でも望まない考えが繰り返し頭に浮かぶ患者がいた
上記の現象は、フロイトが想定していた「欲求=快楽」という図式を崩すものでした。フロイトの精神分析では、無意識の欲求を探求していきますが、治療の中で、自分を苦しめるような欲求が繰り返し表れたのです。
生の本能で説明できない現象がみられたことから、フロイトは死の本能があると考えました。しかし、こういった考え方は他の精神分析家たちからの批判も多く、懐疑的な意見が多かったとされています。
死の本能に関する理論の発展
懐疑的な意見が多かった死の本能ですが、フロイトの死後にさまざまな考え方へと発展しました。現在では、攻撃性や自己主張性として扱われることが多いでしょう。治療者への攻撃的な反応や怒り、自傷行為などにみられます。
フロイトが提唱した死の本能は、多くの批判がありました。その中でも死の本能を肯定したのが、対象関係論という学派を創始した「メラニー・クライン」です。
死の本能=悪い母親
クラインは、死の本能が乳児期の心のプロセスとして表現されるものだと考えました。乳児期では、期待通りに欲求を満たしてくれない「悪い母親」と満たしてくれる「良い母親」の両方の母親イメージを持ちます。
例えば、「ミルクを飲みたい」という欲求を満たしてくれたら「良い母親」、満たしてくれなかったときは「悪い母親」ということです。現実に存在する母親は1人ですが、乳児の中では2人の母親が存在しています。乳児の段階では、良い/悪いという対立する性質が共存しないものと認識しているのです。
死の本能が表現されるのは、「悪い母親」に対してだとされます。自分を迫害する対象だと認識し、攻撃的な衝動を向けるようになるのです。しかし、現実の母親は迫害しようとしてミルクを与えないわけではありません。タイミングよく用意できなかったり、母乳の出が悪かったりするなど、どうしようもない理由から欲求が満たされない場合があるでしょう。
このように、乳児の段階では、周りの人物や世界を捉えるプロセスが大人と異なるとされています。死の本能は悪い対象に対して表現されると考えたのが、クラインの理論の特徴です。
良い母親/悪い母親が大人になっても残る
母親の悪い部分を認められるようになっていくと、次第に分裂した捉え方が統合されていくようになります。そのために必要なのが愛情です。攻撃衝動よりも愛情が上回ると、安定した関係を築けるようになります。
しかし、何らかの原因で愛情が十分でないと、「良い/悪い」の分裂が続いたまま成長してしまうことがあるでしょう。分裂した捉え方が続く状態は、「境界性パーソナリティ障害」の理想化とこき下ろしという不安定な対人関係パターンにみられます。恋人に対して「理想の人だ」と思っていても、悪い部分が見えると「最低な人だ」と一気に悪いイメージになるようなことです。
「理想の人」か「最低な人」かといった、両極端な捉え方があることで、不安定な対人関係になります。これは、乳児の段階でみられた「良い/悪い」で周りを捉えてしまうプロセスが残っているものといえるのです。
本能は言葉では説明できないもの
人間の本能とは、意識されないからこそ本能なのであり、言葉では説明できないものだといえます。精神的な問題が生じるプロセスは、いまだに解明されていない部分も多く、本能が関わっていると考えても不思議ではないでしょう。
大人になっても、本能的な衝動が強すぎると対人関係に影響する場合があります。自分でも抑えられないような衝動に困っている場合は、専門家に相談してみることがおすすめです。
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