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発達に必要な8つの課題とは?エリクソンのライフサイクル理論を解説
2024.05.252024.05.26
心理面・思考
こころの発達の伴う、心理面の変化について
人生のさまざまな局面で、多くの人が経験するライフイベントがあります。例えば、幼少期であれば学校への入学、思春期になれば反抗期、成人すると結婚や出産と、成長の中で直面する出来事です。
心理学者のエリクソンは、心の発達には共通の課題を乗り越える必要があるとしました。他者との関わりを通して課題を乗り越えることで、人は成長するものだという考えです。
本記事では、エリクソンが提唱した「ライフサイクル理論」について、各段階の特徴を解説します。心の発達に関心がある方は、ぜひ参考にしてください。
エリクソンのライフサイクル理論とは?
ライフサイクル理論は、心理学者であるエリクソンが提唱した、心の発達に関する理論です。人間は、他者との関係の中で、生涯を通じて成長していくものだと考えます。
そのうえで、発達の段階ごとに「発達課題」という乗り越えるべき問題が設定されていることが特徴です。発達課題は、「A対B」というように、相反する状態がせめぎ合い、葛藤するものとして表現されます。
成長過程で直面する課題があり、課題の達成を失敗してしまったときに起こる「危機」を乗り越えることで、「徳」という成長を得ます。
例えば、乳児期には、他者を信頼できるかできないかといった「基本的信頼⇔不信」という葛藤(発達課題)が生じます。不信感を信頼感が上回ったときに、「つらいときは誰かが助けてくれる」という希望が得られるでしょう。希望が「徳」であり、その後の人間関係の基盤となります。
エリクソンのライフサイクル理論は、発達段階ごとにやってくる葛藤を乗り越えて成長していくプロセスを説明したものだといえるでしょう。危機をうまく乗り越えられなかった場合、その段階に留まり、後になって問題が生じることがあります。
8つの発達段階の特徴
ライフサイクル理論では、どのような発達段階が想定されているのでしょうか。具体的には、以下の8段階があります。各段階について詳しくみていきましょう。
- 乳児期(誕生~):信頼⇔不信
- 幼児期前期(18か月ごろ~):自律性⇔恥・疑惑
- 幼児期後期(3歳ごろ~):自発性⇔罪悪感
- 学童期(5歳ごろ~):勤勉性⇔劣等感
- 青年期(13歳ごろ~):同一性⇔役割の混乱
- 前成人期(20歳ごろ~):親密さ⇔孤独
- 成人期(40歳ごろ~):生殖性⇔停滞
- 老年期(60歳ごろ~):統合⇔絶望
①乳児期:信頼⇔不信
誕生から1歳半ごろまでの乳児期では、他者への信頼というポイントが発達課題とされています。
赤ちゃんは、自分で何もできず、全面的に養育者の助けを必要とします。乳児期では、「ミルクが欲しい」「オムツを替えてほしい」といった欲求を泣くことで伝え、養育者がどのように応じるかが重要です。
赤ちゃんが抱く欲求に一貫して応答してくれることが、「信頼」を育みます。ただ、忙しくて要求に答えられないときもあるでしょう。欲求を満たしてくれないときは「不信」を抱き、信頼感との間で葛藤しながら、最終的に信頼感が優位になると、他者を信頼できる「希望」が得られます。
乳児期は、母親や養育者との関係性の中で信頼感を育み、その後の人間関係の基礎を作る時期だといえるでしょう。
②幼児期前期:自律性⇔恥・疑惑
1歳半~3歳ごろまでの幼児期前期では、言語能力や尿・便の調節能力が発達し、我慢できるようになります。自分の欲求をコントロールする力を身に付けることが、幼児期前期の発達課題です。
幼児期前期に代表的な課題として、トイレットトレーニングが挙げられます。尿や便を我慢し、必要なときに排出することは、子どもの「自律性」を育てるでしょう。一方、コントロールに失敗すると、「恥」を感じることもあります。さらに、失敗に対して親が過度に怒ったり、トイレで排泄させないようにしたりすると、「自分ではコントロールできないのかも」という自分への「疑惑」を抱きます。
こうして、「自律性」と「恥」「疑惑」の間を葛藤する中で、自分の力で欲求を調節し、判断できる「意志」を獲得するのが、この時期の特徴です。恥や疑惑の感覚が残ってしまうと、完璧主義でルールを気にしすぎる性格になりやすいとされています。
③幼児期後期:自発性⇔罪悪感
3~5歳ごろの幼児期後期では、言語能力や運動能力がより発達します。保育園や幼稚園に通い始め、たくさんの刺激を受けながら過ごす時期だといえるでしょう。そのため、子どもは「自発性」をもとにさまざまなことに挑戦するようになります。
一方で、好奇心旺盛に活動することで、ルールを破ってしまったり、他の子とトラブルになってしまったりすることがあるかもしれません。子どもに悪気はないのですが、「罪悪感」が残ります。
好奇心を原動力として動く「自発性」と怒られることによる「罪悪感」とのバランスを取ることがこの時期の発達課題です。そして、目的に基づいて行動することを学んでいきます。罪悪感が強く残る場合、恐怖症やストレスによる心身症の原因になる可能性があるでしょう。
④学童期:勤勉性⇔劣等感
5~13歳ごろの学童期は、学校教育が始まり、勉強やスポーツなどの活動を通して、自分の得意不得意を知る時期です。真面目に努力したり、他者と関わりながらルールを守ったりする「勤勉性」を身につけます。
とくに、小学校高学年以降は、「ギャングエイジ」と呼ばれるグループ単位で交流することが多くなり、集団での関わりが重要です。集団の中で役割を見つけ、積極的に関わることが勤勉性を高めます。しかし、集団になじめずに自分の能力を発揮できないことが続くと、「劣等感」を抱く可能性があるでしょう。
⑤青年期:同一性⇔役割の混乱
13~21歳ごろの青年期は、第2次性徴に伴って身体が大人と同じような構造となるものの、心理的には未熟といったギャップがある時期です。「人からどのようにみられているか」という点を気にするようになり、「同一性(アイデンティティ)」を確立していくことが発達課題とされています。
同一性は、他者との関わりを通じて確立することが一般的です。例えば、学校の部活動で先輩として後輩を指導したり、ボランティア活動で他者をサポートしたりするなど、さまざまな役割を経験しながら、自分らしさを考えていきます。
自分らしさを追究せず、周囲に合わせてばかりいると生じるのが「役割の混乱」です。自分がどういう人間なのかわからず、何にエネルギーを注げばいいか悩んでしまいます。
青年期では、他者に影響され過ぎることなく、自分らしさを獲得していくことが大切だといえるでしょう。
⑥前成人期:親密さ⇔孤独
21~40歳ごろまでの前成人期は、社会に出て働き、結婚して子どもが生まれるまでの期間を指します。青年期までに確立してきた自分らしさ(同一性)を基盤としながら、この段階では自分を愛してくれる存在との「親密性」を育む時期です。
大切な人との親密性を高めるためには、お互いの価値観のすり合わせを行うことが大切でしょう。しかし、自分らしさが確立されていないと、相手の価値観ばかりを受け入れてしまうことになります。対等な関係を築けないことで、「孤独」が強くなり、表面的な人間関係しか築けなくなってしまう可能性があるでしょう。
⑦成人期:生殖性⇔停滞
40~60歳ごろの成人期では、子どもが生まれて成長し、やがて自立していくまでの期間が含まれます。「生殖性」を身に付けていくことが、この時期の発達課題です。
生殖性とは、自分が持つ知識や技術を、次の世代に伝えていくことを指します。子どもに対する教育に加え、会社でも上司として後輩の指導に当たることが多いのが成人期の特徴です。自分や愛する人だけでなく、下の世代や社会に対してもエネルギーを向けられるようになることが必要な時期といえます。
生殖性が獲得されないと、「停滞」する可能性があるでしょう。例えば、年齢が上がるにつれて、会社では管理的な立場が求められますが、生殖性が身に付いていないと、それを避けることになります。社内での評価は下がり、任される業務が少なくなってしまうかもしれません。
成人期を充実させるためには、下の世代や社会全体といった自分の外の世界に関心を向けていくことが必要だといえます。
⑧老年期:統合⇔絶望
60歳以降の老年期は、人生における最後の段階として、これまでを振り返る時期です。さまざまな出来事を振り返り、「良い人生だったな」と受容する「統合」が発達課題とされます。
人生を振り返る中で、「あの時もっとこうしていればよかった」「結婚は失敗だった」などと後悔することもあるでしょう。また、身体機能が衰え、仕事も退職して社会的な役割が失われて生きがいを失う「絶望」に陥りやすくなります。
統合と絶望を繰り返しながら、人生を良いことも悪いことも含めて「自分にとって唯一無二の人生だ」と思えることで、葛藤を乗り越えていくのが老年期の特徴です。
人の心の発達には他者との関わりが重要
エリクソンのライフサイクル理論は、心の発達は他者との関わりの中で生じるものとするのが特徴です。
他者との関わりがあるからこそ、愛情や自分らしさ、信頼感を育めます。各段階での人との関わり方のポイントを理解し、周囲の人との関係性を育めるように意識すると良いでしょう。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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