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限局性恐怖症とは?診断基準や症状、治し方について解説
2024.05.242024.05.25
広場恐怖症、限局性恐怖症
苦手なもの、恐怖を覚えるものとは
「高所恐怖症」や「閉所恐怖症」、「虫が怖い」など恐怖症という言葉は一般的にも使われる言葉です。誰しも、苦手なものは1つはあると思われますが、恐怖が強すぎて生活に支障を及ぼす状態は、「限局性恐怖症」かもしれません。
今回は、限局性恐怖症の症状や診断基準、治療方法について解説します。
限局性恐怖症とはどんな病気?
限局性恐怖症は、ある特定の対象や状況に対する過度の恐怖が、連続して生じる病気です。恐怖の対象としては、ヘビや虫などの動物、高所が挙げられます。その他にも、嵐や地震が怖いといった自然災害への恐怖、病気や負傷、死など身体の安全に対する恐怖などが代表的です。
限局性恐怖症の生涯有病率は、日本の調査では「3.0%」と推定されており、20代では8.7%と「若い世代に多い」とされています。 うつ病をはじめとした気分障害や不安症、アルコール依存などの物質関連障害との併発が多く、「併発率は50~80%」と高い割合です。
恐怖対象は個人差が大きいといえますが、若い世代では決して珍しくない病気といえるでしょう。また、他の精神疾患との併発が多く、恐怖の軽減だけでは症状が改善しない場合もあることが特徴です。
限局性恐怖症の診断基準と症状は?
限局性恐怖症の症状にはどのような特徴があるのでしょうか。「DSM-5」という診断基準をもとに、具体的な症状について解説します。
恐怖対象によって5つのタイプに分類される
DSM-5では、限局性恐怖症のタイプを以下の5つに分類しています。
- 動物:クモ、虫、犬など
- 自然環境:高所、嵐、水など
- 血液・注射・負傷:注射針、侵襲的な医療処置など
- 状況:航空機、エレベーター、閉所など
- その他:窒息や嘔吐につながる状況など
上記5つのタイプにあるような恐怖対象に対して、一般的なレベルからすると強い恐怖が生じていることが症状の特徴です。恐怖対象が存在する状況においてのみ、恐怖感があることが特徴で、恐怖対象を避けたり、我慢したりすることが多いでしょう。
限局性恐怖症は、恐怖や回避行動が6ヵ月以上続く場合に診断されます。また、恐怖の強さは長期間にわたりあまり変化することがないことも特徴です。強い恐怖が長期間持続するため、生活を送るうえで支障を及ぼしやすいといえるでしょう。
限局性恐怖症と似ている病気との違い
限局性恐怖症に似ている病気としては、特定の状況で恐怖を感じる広場恐怖症が挙げられます。しかし、限局性恐怖症は「1つの恐怖対象」で診断されるのに対し、広場恐怖症は恐怖を抱く状況が「2つ以上必要」という点が異なるでしょう。
また、特定の対象を避ける行動を取ってしまうのは、強迫性障害にもみられる症状です。強迫性障害では、「人を傷つけてしまうかもしれない」という恐怖から刃物を避けます。一方で、限局性恐怖症は「刃物で自分が傷つけられるかもしれない」という恐怖です。回避行動を取るという点では似ていますが、恐怖の種類が異なるといえるでしょう。
さらに、脳血管障害や脳腫瘍でも、恐怖症の症状が生じることがあります。精神疾患だけでなく身体疾患にもみられるため、背景にどんな病気があるか、幅広い視点をもっておくことが大切です。
発症は子どものころと20代ごろに多い
限局性恐怖症は、「幼少期」と「20代前半ごろ」に発症するケースが多い傾向にあります。特に幼少期に発症したケースでは、子どものころの恐怖対象が大人になっても続き、そのまま長年にわたり持続することが多いでしょう。
また、発症時期により、恐怖対象が異なる傾向もあります。幼少期発症のケースでは、動物や自然環境、血液・注射・負傷の恐怖が多いのですが、20代前半ごろで多いのは状況に対する恐怖です。発症時期により、症状の経過や恐怖対象が異なることが特徴といえます。
限局性恐怖症の原因は?
特定の対象に強い恐怖を引き起こす限局性恐怖症ですが、どのような原因によって起こるのでしょうか。強い恐怖が形成されるプロセスと、恐怖症を起こしやすい要因について解説します。
恐怖症のプロセス:条件付けと回避行動がポイント
特定のものに恐怖を感じるようになるまでには、「条件付け」というプロセスが影響していると考えられています。条件付けとは、人がある条件の時に特定の反応を引き起こすよう学習するプロセスです。
例えば、梅干しの写真を見ると、酸っぱい感じがして唾液が出てくることがあるでしょう。梅干しの写真には唾液を分泌する作用はありませんが、「梅干し=酸っぱい」という条件付けが学習されているため、唾液が出るのです。
恐怖症の場合は、特定の物や状況に対して恐怖感が条件付けられている状態といえます。例えば、小さい頃に暗い部屋で大きな音が鳴り続けて怖い体験をした場合、「暗い部屋=怖い」という条件付けが成立し、恐怖症になるのです。
また、恐怖を感じる物や状況を何回か経験して、「実際は怖くない」ということが確認できれば条件付けは失われていきます。しかし、恐怖症の場合、「恐怖対象を避けると恐怖を味わわなくて済む」と学習され、回避する行動が増加してしまうことが多いのです。
恐怖を感じる条件でも実際には安全だということが確認できず、症状が続いてしまうということが恐怖症の特徴といえます。
恐怖症を起こす要因:遺伝的要因と環境的要因
恐怖症は、条件付けにより症状が生じ、回避行動で症状が長く続きます。恐怖症に影響していると考えられるのは、遺伝や環境といった2つの要因です。
遺伝的要因
限局性恐怖症は遺伝しやすいことが特徴です。4分の3から3分の2の割合で、兄弟姉妹、両親、子どもといった近親者に同じタイプの恐怖症がみられることが分かっています。特に、血や怪我、注射に関する恐怖は遺伝する可能性が高いでしょう。
環境的要因
恐怖対象に関するつらい体験があると、条件付けが生じて恐怖症になりやすくなります。他にも、恐怖対象に対する他人の反応や、危険に関する情報も影響することがあるでしょう。
例えば、両親が高いところを怖がり、その反応を見て「高所=怖いところ」と学習してしまうような場合です。また、「ヘビは毒を持っているから気を付けないといけない」という情報を聞いて怖がるといった原因も考えられます。
限局性恐怖症はどのように治療する?
限局性恐怖症の治療には、「暴露療法」という方法が有効であるとされています。
暴露療法では、恐怖対象の中でも弱いものから順番に慣れていき、最終的には恐怖がなくなることを目指す治療方法です。例えば、高所恐怖症の場合、3階がクリアできれば4階と徐々にレベルを上げていきます。恐怖を感じる段階は、個人差があるため、一人ひとりに合わせて「不安階層表」を用いて整理することが重要です。
恐怖対象に直面すると、強い不安感が生じますが、そこでリラクゼーションの方法をとることで、不安を打ち消していきます。リラクゼーションについては、筋肉の緊張と緩和を繰り返す筋弛緩法や、呼吸法といった手軽にできる方法が代表的です。
暴露療法により、恐怖を引き起こす対象や状況の安全性を理解することが、限局性恐怖症の治療につながります。
また、不安やパニック発作が強すぎる場合には、薬物治療との併用も重要です。不安を抑えるベンゾジアゼピン系の中心とした抗不安薬や、心拍数の増加を抑えるβアドレナリン受容体拮抗薬が用いられることもあります。
限局性恐怖症は見過ごされがちな病気
「恐怖症」という言葉は一般的であるため、生活に支障があっても病気と思わずに治療につながらないケースが多いとされています。
診断基準にあるように、一般的なレベルからみて強い恐怖があるなら、治療を受けた方がよいかもしれません。限局性恐怖症は治療すれば、つらさが緩和される病気ですので、必要な方は専門家に相談してみましょう。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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