「すぐやらなきゃ」ができない。先延ばしグセとは？

「すぐやらなきゃ」ができない”先延ばしグセ”は、脳の特性でもある

• 「やらないといけないのに、なぜか他のことを始めてしまう」
• 「毎回ギリギリになってから焦って手をつける」

そんな“先延ばし”に悩む人は少なくありません。

「また怠けてしまった」と自分を責める声が、頭の中に響くこともあるでしょう。しかし、こうした行動は単なる“性格”の問題だけではなく、脳の働き方が深く関係していることが分かってきています。

「やらないと」と思っても行動に移せない脳の仕組み

脳には、快・不快を瞬時に判断して行動をコントロールするしくみがあります。そのなかでも、特に影響が大きいのが「扁桃体（へんとうたい）」という領域です。

扁桃体は不安・恐れ・緊張といった感情に関わっており、面倒な作業やプレッシャーのかかるタスクに対して「避けろ」と信号を出す傾向があります。つまり、「やらないと」と思っても、その背後にあるストレスを察知すると、脳は“無意識に”避ける行動へと導いてしまうのです。

自制心をつかさどる「前頭前野」がうまく働かないと…

私たちが「自分を律して行動する」際に使っているのが、脳の前方にある「前頭前野（ぜんとうぜんや）」です。この部分は、計画を立てたり、集中力を維持したり、感情をコントロールしたりする働きを持っています。

ところが、ストレス・疲労・睡眠不足といった要因が重なると、前頭前野の活動は鈍くなり、意欲や判断力が低下していきます。その結果、「やった方がいい」と理解していても、体が動かず、スマホや動画に気が向いてしまう。これが、脳レベルで起きている“先延ばし”の実態です。

ADHDや発達特性と先延ばしの関連性

• 「毎回、どうしても先延ばししてしまう」
• 「締切間際にならないと集中できない」

そんな悩みが慢性的に続いている場合、ADHD（注意欠如・多動症）などの神経発達特性が関係している可能性もあります。

ADHDでは、脳内の神経伝達物質（ドーパミンなど）の調整がうまくいかず、先を見通す力・計画性・注意の持続に困難を抱える傾向があります。一見、サボっているように見える行動も、実は「脳の切り替えが難しい」「始めるまでに大きな負荷がかかる」といった、生理的な特性によるものかもしれません。

「やる気が出るまで待つ」より「小さく始める」メリットとは

「やる気が出ないから始められない」このような感覚は多くの人が抱きますが、実はこれは脳科学的に逆のプロセスでもあることが分かっています。

脳には「作業興奮」と呼ばれるしくみがあり、とりあえず手をつけることで神経系が活性化し、次第にやる気や集中力が湧いてくるのです。そのため、やる気を待つよりも、1分だけでもいいから始めてみることが、結果的に作業を前進させる鍵になります。

先延ばしを減らすための実践的アプローチ

先延ばしに対抗するには、脳の性質に合わせた対処が有効です。以下の方法は、多くの人に効果が見られています。

“タスクの細分化”でハードルを下げる

「論文を書く」ではなく「タイトルだけ決める」「目次だけ作る」など、行動の最小単位に分解することで、取り組みやすくなります。

“25分だけ”と時間を切って着手する

ポモドーロ・テクニック（25分集中＋5分休憩）は、集中が続かない人にも有効。短時間で区切ることで、始めやすくなります。

“環境”からの刺激を減らす

スマホを遠ざける、SNSをブロックする、静かな場所に移動するなど、脳の選択肢を減らすことで注意が逸れにくくなります。

医療や専門的支援が力になる場合もある

• 「気合でどうにかしようとしてもうまくいかない」
• 「繰り返すたびに自己嫌悪が強まっている」

そんな場合には、心療内科や精神科での相談も選択肢のひとつです。

• ADHDや発達特性の有無のチェック
• 認知行動療法など、行動変容のサポート
• 必要に応じた薬物療法で脳の働きを整える

脳の働きや個性を理解した上で適切なサポートを受けることで、「できない自分」から「できる自分」へと環境を整えていくことが可能になります。

自分を責める前に、「脳の癖」を知ることから始めよう

私たちの行動は、意志や根性だけで決まるわけではありません。集中力・意欲・行動力といったものも、脳の状態や働き方に左右されるものです。

だからこそ、「またできなかった」と自分を責めるのではなく、「なぜできなかったのか」「どうすればやりやすくなるか」を、脳の観点から考えることが大切です。

先延ばしは、変えられます。まずは自分の脳と向き合い、やさしく理解するところから始めてみませんか？

野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など