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“働く”ことがしんどいあなたへ
2025.05.132025.05.21
職場とメンタルヘルス、精神科・心療内科
“働く”ことがしんどいあなたへ
「仕事がしんどい。みんな当たり前にやっていることが、自分にはどうしてもできない」「何度転職しても続かない。自分は社会不適合なんじゃないか……」
こうした声は、メンタルクリニックで非常によく耳にします。本人の努力が足りないわけでも、甘えているわけでもありません。それなのに、「普通」に働くということが、なぜこんなにもつらいのでしょうか。
この記事では、「働くことがしんどい」という感覚の背景にあるさまざまな要因を見つめ、そこから見えてくる「合わないだけかもしれない」という視点について、精神科的な立場からお伝えします。
「普通に働く」を、そもそも言語化してみる
現代日本における“普通の働き方”とされているのは、たとえば以下のようなものです
- 週5日、8時間労働
- 対人コミュニケーションを含むチームワーク
- マルチタスク対応
- ストレス耐性
- 長期的に安定して勤務できる能力
しかし、これらの要素は本当に「普通」なのでしょうか。冷静に見てみると、実はかなりハードルが高いことが分かります。特に、感覚が敏感な人、疲れやすい人、神経が繊細な人にとっては、こうした環境そのものが「負担に感じてしまう」こともあるのです。
また心の不調を抱えている人にとっても、さらに高いハードルとなってしまうと思います。
合わない人にとっては、「普通」が過剰刺激になることも
例えば、HSP(Highly Sensitive Person:非常に感受性の高い人)の方や、発達特性(ASDやADHDなど)を持つ人にとって、職場は五感と心が常に過剰に刺激される場になりやすいです。
- 目まぐるしい環境変化
- 人の表情や声色に過敏に反応して疲れてしまう
- 忘れっぽさやケアレスミスを責められる
- 雑談が苦痛、休憩中も気が抜けない
こうした状況では、本人の意思とは関係なく「脳がフル稼働してしまい、疲弊していく」状況になってしまうこともあるのです。これは、能力や努力の問題ではなく、生物学的な脳の特性によるものであることが多く、自己責任で解決できることでないことも少なくありません。
誰でも頑張ればできるという思考の危うさ
「周りはみんな普通に働いているのに、自分だけうまくいかない」「もっと頑張らないといけない」そう感じて、自分を責めていませんか?
けれども、それはとても危うい思考です。
人にはそれぞれ、得意なこと・不得意なこと、心地よく感じる環境・ストレスを感じやすい環境があります。「誰でも頑張ればできるはず」という考え方は、個人差や環境要因を無視してしまいがちです。
無理を続けた結果、心と体が限界に達してしまうことも少なくありません。うつ病や適応障害、心身症、不安障害などの背景には、「合っていない環境で無理を重ねてきた」という方も実は多くいらっしゃいます。
「働けない」「適応できない」「もう終わりだ」ではない視点で
今の働き方がしんどいからといって、「自分は社会に適応できない」「もう終わりだ」などと結論づける必要はありません。そこでもう一度自分の働き方について振り返ってみてはいかがでしょうか?
現代社会では、従来の“フルタイム勤務・対人中心の働き方”にとらわれない選択肢が少しずつ広がってきています。たとえば
- 集中力が続きにくい人には、短時間勤務や柔軟なシフト制
- 感覚過敏や対人疲労がある方には、在宅ワークや静かな職場
- コミュニケーションが苦手でも活かせる裏方の作業や専門職
- スモールステップで仕事に慣れる支援付きの働き方
中には、就労移行支援などの制度を利用して、自分に合った働き方にたどり着いた方もいます。けれども、これは“逃げ”ではありません。「合う場所を探す力」も立派な適応力です。
現実との「すり合わせ」の大切さと、「自分が持続できること」・「安心して力を出せること」
働き方に正解や不正解があるわけではありません。けれども、「何をどうすれば、自分の力を発揮し続けられるか」「自分が持続できること」「安心して力を発揮できること」を考えることは、誰にとっても大切なテーマです。
もし今の職場で「しんどさ」や「違和感」を感じているなら、それを無理に我慢し続けるのではなく、一度立ち止まって、自分と環境や、自分の特性との“ズレ”に目を向けてみてください。
時には極端になりすぎない視点で
ここで重要なのは、「いまの仕事をやめるかどうか」といった極端な二択ではありません。まずは、どこに負荷がかかっているのか、どんなときに疲弊するのかを冷静に見つめ直すこと。そして、可能であれば職場内での調整(業務内容の変更や勤務時間の見直し)を試みるのも一つの方法です。
それでも難しい場合には、転職や配置換え、副業的な試行、あるいは一時的な休職といった選択肢が視野に入ってくるかもしれません。ただしそれは、現実から逃げるための決断ではなく、「より自分らしく働くために、どう現実とすり合わせていくか」という前向きな取り組みです。
「がんばること」そのものを否定する必要はありません。むしろ、頑張る方向を少し修正するだけで、同じ努力でも結果がまったく違ってくることもあります。自分のペースを守りながら、安心して力を出せる環境をつくっていくこと。それが、持続可能な働き方への第一歩になるのではないでしょうか。
最後に
「みんなにできていることが、自分にはできない」そう感じることは、とてもつらいものです。けれどもその背景には、個人の資質よりも“その人に合った環境かどうか”が大きく影響しています。
頑張ること自体が悪いわけではありません。ただ、頑張る“場所”と“方法”が自分に合っていないと、心と体に無理が生じてしまいます。
もし「今の働き方に違和感がある」と感じているなら、それは弱さではなく、“気づける力”です。現状に合わせようとしてみたものの、それでも不調を起こしてしまう前に、環境のほうを見直す勇気も、大切にしていただきたいと思います。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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