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うつ病/大うつ病性障害~引き起こされる問題、鑑別診断~
2023.05.192024.05.18
パーソナリティー障害、うつ病
うつ病/大うつ病性障害~引き起こされる問題、鑑別診断~
うつ病は、自殺のリスクが非常に高い疾患です。自殺を防ぐためには、うつ病と他の疾患をきちんと鑑別して、疾患に応じた治療をしなければなりません。
この記事ではDSM5を元にして、うつ病/大うつ病性障害が引き起こす問題や鑑別診断について説明します。
うつ病/大うつ病性障害が引き起こす問題
うつ病が引き起こす最も深刻な問題は、自殺です。回復期も含め、抑うつエピソードの全期間を通して自殺の危険があります。回復期に自殺してしまう理由は、自殺を実行できるほどエネルギーが回復したり、回復期では気分が良くなったり悪くなったりと不安定になったりするためです。多くの場合、自殺既遂の前に自殺未遂は行われていません。つまり、いきなり自殺する恐れがあるということです。自殺既遂のリスクファクターとして、以下があります。
- 男性
- 独身、一人暮らし
- 非常に強い絶望感
また、高齢者のうつ病患者さんが介護老人保健施設に入所した場合、1年以内に死亡する確率は非常に高いです。その理由のひとつとして、精神と身体の結びつきが高齢者では特に強いことが挙げられます。うつ病による意欲が低下して運動しなくなる、そうすると運動能力が低下するから寝たきりになりうつ病が悪化するといった具合に、精神・身体ともに悪化して死に至ります。
ほかにも、症状に応じて様々な機能障害が引き起こされる、入浴や食事などの基本的な自己管理を行えなくなることもうつ病の問題です。
鑑別診断
うつ病と鑑別すべき疾患として、以下があります。
易怒的気分を伴う躁病エピソード、混合性エピソード
抑うつエピソードであっても、抑うつ気分ではなく易怒的な気分が生じることがあります。この場合、躁病あるいは混合性エピソードなのか、抑うつエピソードなのか、鑑別するのは困難です。他に躁病の症状はないか、丁寧に臨床的評価を下さなければなりません。
他の身体的疾患による気分障害
抑うつエピソードで生じる症状は、時に身体疾患でも生じることがあります。例えば、甲状腺機能低下症により代謝が低下した結果、無気力や思考力の低下が見られることもあります。疾患ではありませんが、妊娠初期の過眠や、妊娠後期・出産後の不眠も、抑うつエピソードで見られる睡眠障害と共通しています。患者さんの病歴や身体所見、各種検査結果から明らかに特定の身体疾患によるものであると完全に説明可能な場合は、うつ病とは見なされません。また、抑うつ気分、喜びの喪失、自己の無価値感、集中困難、自殺念慮などの非自律神経性の症状の有無も、鑑別するうえでポイントとなります。
物質・医薬品誘発性抑うつ障害または双極性障害
薬物やアルコールなどの物質が抑うつエピソードの病因として明らかに関連があると判断される場合、うつ病から鑑別されます。例えば、それまでうつ病の既往歴の全くない方が副腎皮質ステロイド薬を投与された数日後に抑うつ状態に陥ったならば、薬物によって抑うつ状態が引き起こされたと考えるのが妥当です。うつ病を引き起こしやすい薬物としては、インターフェロン製剤や副腎皮質ステロイド薬などがあります。なお、薬物によって引き起こされたうつ病は通常のうつ病と異なることが多いです。例えば、抑うつ気分や喜びの喪失よりも焦燥感や不安、幻聴などが目立つことも少なくありません。
ADHD
うつ病の症状のひとつである集中力の低さは、ADHDでも見られるものです。うつ病とADHDの両方の診断基準を満たす場合は、それら2つの診断を下すことができます。なお、ADHDの患者さんが示す気分の障害が易怒性のみの場合、抑うつエピソードの過剰診断にならないように注意すべきです。
適応障害、抑うつ気分を伴う
絶望感や落ち込みなどが見られるという点で、うつ病と適応障害(特定のストレスのために非常に強い苦痛を感じ、気分や行動面で症状が生じて日常生活を円滑に送れなくなる)は似ています。しかし適応障害はうつ病と異なり、ストレスから離れることができれば症状は回復していきます。そのため、2週間以上ほぼ終日症状が見られるといううつ病の診断基準は満たされません。こういった場合は、「適応障害、抑うつ気分を伴う」と診断されます。
悲哀
悲哀は人間として正常な反応と言えるものです。とはいえ、①抑うつエピソードの診断基準Aの9項目中5つ以上の症状が認められる、②症状は2週間ほぼ毎日終日認められる、③臨床的に意味のある苦痛や機能障害が認められるといった全ての条件が認められる場合、うつ病の診断が下されます。いずれかが認められない場合は、他の特定される抑うつ障害の診断を下すのが適当とされています。
併存する疾患
うつ病と併存する疾患として、以下があります。
・物質使用障害
・神経性やせ症(いわゆる拒食症)、神経性過食症 など
上記の疾患のなかでも、特に境界性パーソナリティー障害や物質使用障害、パニック障害をはじめとする不安は特に併存しやすいと言われています。上記の疾患をベースにして生じた抑うつエピソードは難治性であることが多いです。それというのも、抑うつ症状によってベースとなった疾患が見えにくくなり、適切な治療を受けることが難しくなるためです。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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