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他の医学的疾患による抑うつ障害~特に脳に関連した医学的疾患、鑑別診断など~

2023.05.192024.05.03

適応障害、他の医学的疾患による抑うつ障害、うつ病

他の医学的疾患による抑うつ障害~特に脳に関連した医学的疾患、鑑別診断など~

前編の記事では、DSM5に基づいて他の医学的疾患による抑うつ障害の概要やその診断基準などを説明しました。

後編では特に脳に関連した医学的疾患や、鑑別診断などを解説します。

脳に関連した医学的疾患と抑うつ障害

抑うつ障害は非常に憂うつな気分や様々なことへの意欲の低下などを主症状としますが、その問題の本質はストレスなどが脳に変化を及ぼすことにあります。そのため、脳卒中やハンチントン病、パーキンソン病などの脳に関連した医学的疾患では症状の発展や経過に関連する知見が特に多く集積されています。

脳卒中や脳血管発作

脳卒中が原因となる場合、抑うつ障害の発症は非常に急激です。脳血管発作が生じた当日から数日以内に抑うつ症状を呈することが多いです。とはいえ、脳血管発作が生じてから数週間から数か月後に抑うつ障害を発症した症例もある点には注意しなければなりません。

脳血管発作から抑うつ障害の発症までのスパンは障害部位と関連していると考えられています。左前頭葉に脳卒中が起きた場合、数日以内に抑うつ障害を発症するリスクが高いです。同じ前頭葉の出血ですが、右前頭葉の場合には数日以内に抑うつ障害を発症するリスクは低いと考えられています。脳血管発作が生じてから数週間から数か月後に抑うつ障害を発症した症例では、前頭葉や脳の左右差といった出血部位は抑うつ障害の発症までのスパンと関連していないようです。

脳卒中が原因で生じた抑うつエピソードの持続期間は平均9~11ヶ月であり、原発性抑うつ障害の多くのケースと比較して長い傾向にあります。

ハンチントン病やパーキンソン病

抑うつ障害が最初に生じる神経精神症状であると言われるほど、ハンチントン病の経過の早期で見られます。なお、ハンチントン病では認知症が進行するにつれて、抑うつ症状は軽度になっていきます。同様に、抑うつ症状が早期から見られる疾患がパーキンソン病です。運動障害や認知障害よりも抑うつ症状が先に見られます。

医学的疾患に付随する特徴

性別や診断マーカーは、原因と考えられる医学的疾患に付随します。

例えば、全身性エリテマトーデスは女性のほうが多く、脳卒中は中年期の男性のほうが多いため、それらによって生じる抑うつ障害にも同様の性差が見られます。

原発性抑うつ障害の場合、診断マーカーはありません。しかし、医学的疾患と関連する診断マーカーが抑うつ症候群とも関連する可能性があります。クッシング病を例にあげると、血液や尿のステロイド値はクッシング病の診断を確定するのに役立ちますが、抑うつ症候群とも関連する可能性があります。

自殺のリスク

特に明らかな関連性が認められているのは、重篤な医学的疾患の発症直後や診断時の自殺です。そのため、医学的疾患と関連した抑うつによる自殺リスクは他の抑うつ障害による自殺リスクと同等かそれ以上であると認識しておく必要があります。

鑑別診断

医学的疾患の治療方針とも関わってきますので、その抑うつ障害の病因が医学的疾患であるのかを鑑別することは大切です。

他の医学的疾患によらない抑うつ障害群

抑うつ障害が他の医学的疾患によって引き起こされたか否かを判断するポイントは、以下の3つです。

① 抑うつエピソードが医学的疾患の発症前から起きていたか

② その医学的疾患や関連疾患が抑うつ障害を引き起こす可能性があるか

③ その医学的疾患の経過と抑うつ障害の経過に関係性を見いだせるか

医薬品誘発性抑うつ障害

医学的疾患自体だけではなく、疾患を治療する医薬品も抑うつ症状を引き起こすことがあります。このような場合、医学的疾患と医薬品のどちらのほうが病因であるかをこれまでの経緯を元に判断しなければなりません。なお、医学的疾患と医薬品の両方ともに抑うつ障害の病因であると診断を下すこともあります。

適応障害

医学的疾患の発症自体がストレスとなりますが、ストレスはうつ病だけではなく適応障害(明らかにストレスによって心身に不調が生じた状態。うつ病と異なり、ストレスから離れることができれば症状が回復するという特徴がある)のリスクでもあります。そのため、医学的疾患によって生じている抑うつ状態が抑うつエピソードであるか、それとも適応障害における抑うつ状態に過ぎないかを鑑別しなければなりません。抑うつ症状の数や重症度は鑑別要素のひとつです。

併存症

抑うつ障害の病因となる医学的疾患に関連した疾患・症状が併存することがあります。例えばクッシング病の場合、抑うつ症状が生じる前、あるいは同時にせん妄が生じることがあります。医学的疾患とは関係なく抑うつ障害全般に共通することですが、不安を併存することは多いです。

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