社会リズム療法について

社会リズム療法

朝になったら目が覚める。太陽が昇るにつれて活動的になり、日が沈み夜になると眠くなる。時間の移り変わりとともに私たちの体は活動状態になったり休息状態になったりします。これは、人間の体には概日リズムというリズムがあるためです。このリズムも心身の健康と関係するもののひとつです。

この記事では、概日リズムを説明したうえで社会リズム療法について解説します。

概日リズムとは

人間の体が持っている約24時間周期のリズムは、概日リズム（別名サーカディアンリズム）と呼ばれます。脳の視床下部の視交叉上核（網膜から大脳へ伸びている視神経の交わる場所）によって概日リズムはコントロールされています。なお、お腹が空いたらグーッと鳴る「腹時計」は専門用語ではありません。概日リズムに沿って色々なホルモン分泌や体温調節などが行われた結果、目覚めたり、食事や運動したりといった活動が行われます。

概日リズムと、実際の1日の時間あるいは私たちの活動がズレると、心身に様々な問題が生じます。ズレの代表例は時差ボケです。時差9時間あるロンドンへ旅行に行くイメージをしてください。正午に飛行機に乗ったとして、飛行機による移動時間を約12時間と考えると、現地時間の午後3時にイギリスに到着することになります。午後3時といえばまだ活動的に過ごせる時間です。

しかし体のほうはイギリスの時間に調整できておらず、体感では午前0時の気分のため、ものすごく眠くなるのです。同様に、夜勤勤務者が体調を崩しやすいのも、体のリズム（概日リズム）と実際の24時間のリズムのズレから説明できます。

時差ボケによる眠気を解消するためには、体のリズム（概日リズム）と実際の24時間のリズムを合わせる必要があります。一番効果があるのは日光、それも朝の陽ざしです。網膜から大脳へ伸びている視神経の交わる視交叉上核で概日リズムがコントロールされていることを思い出してもらえると、納得できるものです。他にも、明るい光の元での運動も効果があります。

社会リズム療法

心身の健康を整えるうえで大切なものは、概日リズムだけではありません。人間は社会的な生物であるので、対人関係による社会的刺激の影響は無視できないです。概日リズムと社会的刺激の2つを整えることを目的に行われる心理療法は、社会リズム療法と呼ばれます。

社会リズム療法ではソーシャルリズムメトリック（SRM）を用いて、概日リズムと社会的刺激の2つの観点から1週間ごとに毎日の活動をチェックしていきます。概日リズムの観点ではその活動をした時刻を、社会的刺激の観点ではその活動に他の人がどの程度かかわっていたか（自分ひとりから刺激が強いと言えるほど他者とかかわりあったの4段階）をチェックします。そして、総括としてのその日の気分はどうだったか（すごく憂うつからすごく高揚の11段階）を評価するのです。

SRMの活動チェックリストは以下の17項目からなりますが、特に重要なものは下線を引いたものです。いきなり17項目全てをチェックし続けるのは大変ですので、まずは重要な5項目からでもよいでしょう。

1.起床した時刻

2.人と初めて接触した時刻

3.朝の飲み物を飲んだ時刻

4.朝食をとった時刻

5.初めて外出した時刻

6.仕事・学校・家事・ボランティアなどを始めた時刻

7.昼食をとった時刻

8.昼寝をした時刻

9.夕食をとった時刻

10.運動をした時刻

11.夜食・飲み物をとった時刻

12夜のテレビのニュース番組を見た時刻

13.別のテレビ番組を見た時刻

14～16.活動A、活動B、活動Cをした時刻（患者さんごとに決めます）

17.就寝した時刻

SRMを作成することで、自分の体のリズムや社会リズムが気分とどのような関連しているのかが見えてきます。体のリズムや社会リズムを意識して整えていくことで、病状の改善を目指します

社会リズム療法は双極性障害の治療に有効

社会リズム療法は対人関係療法と組み合わせた「対人関係社会リズム療法」として、双極性障害の治療に用いられています

対人関係療法は、患者さんにとって重要な他者との関係を見直して再構築を図るというものです。社会リズム療法が対人関係を単純にストレスの量と見ているとすると、対人関係療法では特に重要な対人関係の質に注目していると言えるでしょう。ただし、重要な他者とのやりとりにおけるトラブルを解決するための方法を考え、ロールプレイで練習するため、対人関係療法も認知行動療法のアプローチに近いものと言えます。

対人関係社会リズム療法は双極性障害の治療だけではなく、再発予防やエピソード後の心理社会機能の回復などにも有効とされています。そのため、双極性障害の治療方法として日本うつ病学会の双極性障害委員会にも認められています 。