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抗精神病薬の「スイッチング」とは?統合失調症治療における切り替えの考え方と注意点
2025.03.122025.11.12
お薬、統合失調症
統合失調症とは「病期の理解」
統合失調症は、現実と自分の思いや知覚との境があいまいになる「陽性症状」(例:幻覚・妄想)や、感情や意欲の低下、社会的機能の障害といった「陰性症状」を伴う慢性の精神疾患です。発症から改善・維持に至るまで、一般には下記のような4段階の病期をたどることがあります。
- 前駆期⇒症状が出る直前の微かな変化期。気分・睡眠・注意力の変化などが見られやすい。
- 急性期⇒妄想や幻覚などが目立って現れる時期。1 か月~数か月続くことがあり、日常生活や対人関係に大きな影響を及ぼします。
- 回復期(または安定期)⇒急性期の症状が落ち着き、治療を通じて社会生活や自立へ向けた支援が始まる時期。
- 維持期/再発予防期⇒再発を防ぎながら、より長期的に安定化を図る段階。仕事や学び、家庭生活での機能回復が焦点になります。
急性期には薬物療法が特に重要であり、その後の回復・維持期においても薬の継続や生活支援が鍵となります。

抗精神病薬治療の位置づけ
急性期の治療では、抗精神病薬が第一選択として位置づけられています。これらの薬は幻覚・妄想などの症状を軽減し、本人の生活の質を改善することが期待されます。
ただし「十分な量を十分な期間」用いても思うような改善がみられない場合も少なくありません。特に陰性症状や認知機能不全、社会機能低下が残存すると、単に薬を続けるだけでは十分な改善を得にくいという現実があります。
統合失調症においては、 多数の薬を併用する多剤併用(ポリファーマシー)が推奨されないというガイドラインもあり、薬物治療の選択肢としては「現在の薬を継続する」「別の薬に切り替える(スイッチング)」といった二つの道が実質的に主流となります。

スイッチングの意義「なぜ“別の薬に切り替える”のか」
スイッチングとは、現在使用中の抗精神病薬が十分な効果を示さなかったり、副作用の負担が大きかったりした場合に、別の薬剤へ変更することを指します。その意義として以下のポイントが挙げられます。
理由1
別機序・別薬剤に変更することで、今まで得られなかった症状改善が期待できる可能性があります。例えば、ドーパミン作用中心の薬から、複数の神経伝達物質に作用する薬へ切り替えたところ、効果改善が報告された研究もあります。
理由2
一方で、最新のシステマティックレビューによれば、スイッチングによる「明確な優位性」を示すエビデンスはまだ限定的/不確実であるという報告も出ています。一方でスイッチングをしてはいけないという明確なエビデンスも乏しい状態ではあります。
理由3
副作用や薬の負担を軽くする目的でもスイッチングが検討されることがあります。例えば、代謝異常(体重増加、脂質異常、糖代謝異常など)を起こしやすい薬から、リスクの低い薬への切り替えにより身体的健康の維持に寄与した例も報告されています。
考えられること
つまり、スイッチングは「必ず行うべき手段」というより、「検討すべき重要な選択肢」であり、個々の病状・副作用・生活状況を踏まえて慎重に判断されるべきものです。

スイッチングを検討すべきタイミング・ポイント
いつ「切り替え」を検討すべきか、その目安を整理します。
タイミング・ポイント1
抗精神病薬服用開始後、一般的には 1~2週間以内に症状改善の兆し が現れることが期待されます。改善が見られない場合、早期に主治医と「薬が合っていない可能性」について話すことが重要です。
タイミング・ポイント2
種々の薬剤や患者条件によっては「4週間程度は継続して様子をみるべき」という意見もあります。焦らず、主治医の指示に従うことが大切です。
タイミング・ポイント3
スイッチングを行う際には、現在の薬の有効性・副作用・生活への影響・本人の希望などを改めて整理し、次の薬がどのような作用機序・副作用プロファイルを持つかを理解しておくことも大切です。気づきや、早めの体調への対処へとつながりやすくなるからです。

スイッチングの技法:薬のやめ方・はじめ方
スイッチングを安全に行うためには技法(方法)が大切です。主な方式を以下に整理します。
薬の中止(現在の薬から外す)
- 急速中止⇒現在の薬を短期間でやめる方式。副作用・症状悪化が強い場合に選ばれますが、リスクも高いため慎重な観察が必要です。
- 緩徐中止⇒ゆっくりと薬の量を減らしていく方式。体への負担が少ない反面、時間はかかります。
- 待機・緩徐中止⇒新しい薬の導入後、少し期間を置いてから以前薬を徐々に減量する方法。切り替えによる症状の再燃リスクを抑える設計です。
中止方法自体が治療成績や副作用に「明確な差がある」とまでは示されていませんが、主治医の指示なしに勝手に中止するのは非常に危険です。
新薬の開始(切り替え先を始める)
- 急速開始⇒症状が明らかに強い急性期の場合、新薬を速やかに始めることで症状改善の確率が高まることが言われています。
- 緩徐開始⇒症状が安定期あるいは維持期の場合、新薬を少しずつ導入し安定化を図る方が治療中断のリスクが下がるという報告があります。
上述のように、患者の状態・病期・薬の特性を踏まえて選択されます。
実務における注意点・ご家族・患者さんへのメッセージ
薬を飲み始めて効果を感じられるには時間がかかることもありますし、時には思わぬ副作用を生じてしまうことは少なくありません。スイッチングは「効果がなかった薬を投げ捨てる」行為ではなく、「あなたにとってより適した薬剤を探すプロセス」です。主治医とよく相談し、副作用・生活への影響・継続しやすさも含めて選択していくことも重要なのです。
また薬物療法だけでなく、精神・心理社会的支援(精神療法や、作業療法、地域支援など)を併用することで、再発予防・社会復帰の可能性が高まります。
まとめ
統合失調症における抗精神病薬のスイッチングは、決して軽い決断ではありません。しかし、「今の薬が合っていないかもしれない」と感じたとき、スイッチングは有効な選択肢の一つです。最新の研究では、継続治療とスイッチングのどちらが明確に優れているかを示す確かなエビデンスはまだ限定的ですが、現実の臨床では多くの患者さんがスイッチングによる改善の可能性を経験しています。
服薬開始後「効果が見られない」「副作用がけっこうつらい」と感じたときは、すぐにあきらめず、主治医に「スイッチングも含めて検討できますか?」と相談してみてください。
治療は一人で抱えるものではありません。専門家やご家族とともに「よりよい薬・よりよい生活」を目指して歩んでいきましょう。こちらの記事がお読みになった方の希望となり、安心につながる一助になれば幸いです。
参考文献
https://www.dovepress.com/a-review-of-switching-strategies-for-patients-with-schizophrenia-comor-peer-reviewed-fulltext-article-NDT?utm_source=chatgpt.com
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