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親身に聞いてもらえると好きになる?治療で起こる「転移」とは?
2024.05.232024.05.23
転移、心理面・思考
対話相手という関係を超えて、感情や信頼が生まれる時
例えば、親身に話を聞いてもらえると、対話相手という壁を越えて、好意を抱いたり、ときには恋愛感情に発展したりすることがあるかもしれません。そして、それは、カウンセラーや医師などに対して特別な感情を抱く現象となることもあります。もちろんそれは愛情や信頼・尊敬といった表現が妥当な感情の時もあります。
これらの感情は「転移」と呼ばれます。
転移は、医師の診療やカウンセリング場面で起こりがちな現象で、日常場面で抱く感情とは異なる場合があります。信頼関係などの一定の治療関係を良好に働かせるための感情は大切な場合もあります。しかし、とくに恋愛感情はカウンセラーとの関係にも影響し、どのように折り合いをつければいいか悩むこともあるというのは注意が必要です。
本記事では、心理面での「転移」について解説します。
転移とは?
過去に体験した人間関係のパターンや特定の他者に向けていた感情が、現在の関係に表現されることを「転移」と呼びます。精神分析学を創始したジークムント・フロイトが発見した現象で、医師やカウンセラーなど、相談者の関係で生じやすいものです。
両親に関する話題でも「転移」は起きやすい
転移が起こりやすい状況は、たとえば両親に関する感情が多く、医師やカウンセラーとの関係では「親子関係」や「親子問題」が再現されたり、考え直されることがあります。
例えば、「医師やカウンセラーと話していると落ち着く」というのは、過去に両親との間で感じていた安心感や、これまで両親の事に関して納得できていないかった自分の中への違和感への十分な理解と許容が得られているからかもしれません。
もっとちゃんと伝えたい・分かってほしいという気持ち
しかし、悩みを話す中で、「自分の問題をもっと分かってほしい」と不満を抱くこともあるでしょう。これは、子どものころに両親に分かってもらえなかった思いが再現されている可能性があります。
どんなシーンで「転移」は起きやすいのか
医師やカウンセラーなど、相談者に向けられる感情のすべてが転移によるものだとは言い切れませんが、「転移」は診察やカウンセリング、真剣な相談事などの場面では起こりやすいでしょう。
「転移」が起きやすい環境とは
理由としては、相談する時間や部屋が制限されている事、頻度も含めてルール化された中で、相談者と会って話をするためです。
なお、転移は悪いものではなく、どうしてそのような感情が沸き起こるのかをカウンセラーや相談者と一緒に理解することは有益だと考えられています。相談者に対する特別な感情を内に秘めるのではなく、共有した上で治療に活かしていくのがよいといえるからです。
転移の3つのタイ プ
転移は、感情が別の対象に向けられたり、自分ではなく相手に移し替えられたりすることで生じる現象です。転移には、向けられる感情によって、以下の3つのタイプがあります。
- 陽性転移
- 陰性転移
- 逆転移
陽性転移
カウンセラーに好意や親しみ、安心感などのポジティブな感情を向けることを「陽性転移」といいます。これまで抑えてきた感情や、印象的な気持ちが再現され、カウンセラーに向けられることが特徴です。具体的には、以下のような現象が生じることがあります。
- カウンセラーと話していると安心できる
- 褒めてほしいのでネガティブなことは話さない
- カウンセラーに恋愛感情を抱く
陽性転移は、カウンセラーとの関係を温かなものにし、治療を円滑にするメリットがあります。しかし、印象を悪くしたくないという思いからネガティブな内容を話さなくなることがあり、治療が滞ってしまう場合があるでしょう。また、恋愛感情を止められず、苦しい思いをしてしまうことがあります。
陰性転移
医師やカウンセラーに対して、怒りや不満、憎しみなどのネガティブな感情を向けることを「陰性転移」と呼びます。幼少期に親に対して向けていた「分かってくれない」「大切に扱われていない」という感情が、カウンセラーに向けられることが原因です。具体的には以下のような現象が起こりやすいでしょう。
- きちんと話を聞いてくれないように感じる
- 自分を嫌っているように感じる
- カウンセリングに通いたくなくなった
陰性転移は、カウンセリング場面でたびたびみられる現象です。ネガティブなものではなく、満たされない思いが消化不良を起こし、両親との関係性が再現されているものと捉えます。
陰性転移が起きたときは、カウンセラーに伝えてみるとよいでしょう。転移が生じる感情は、自分にとって重要な感情であることが多いです。カウンセラーと転移が起きている原因を一緒に探れば、治療が進展する可能性があります。
逆転移
逆転移とは、カウンセラーが相談者に特別な感情を向けることです。陽性転移や陰性転移とは感情を向ける方向が逆なので、「逆」転移と呼ばれます。
医師やカウンセラーも人間であるため、相談者のつらい体験を聞いていると「助けてあげたい」と感じることがあるでしょう。また、自分にとって受け入れがたい行動をした相談者がいたら、「それはよくない」と憤りを感じるかもしれません。
しかし、特にカウンセラーは中立的な態度で話を聞くことが求められます。カウンセラーが過度に同情したり、注意したりするようなことがあれば、逆転移が起きている可能性があるでしょう。
転移が起きる3つのメカニズム
では、転移がどのようにして生じるのでしょうか。転移が生じる3つのメカニズムについて詳しく解説します。
メカニズム①:置き換え
成長過程の中で体験したものや、そこから派生した内容が、過去の対象ではなく現在の人物に向けられることです。過去の大切な人物(主に親)に向けるはずだった好意や愛情を別の対象に向けることをいいます。
医師やカウンセラーに対しての好意や安心感につながり、治療関係に良い影響を及ぼします。ただ、場合によっては恋愛感情に発展する可能性もあり、取り扱いに注意する必要があるでしょう。
メカニズム②:投影
受け入れがたい感情を、他人が持っているものと思うことを「投影」と呼びます。例えば、「自分が距離を置きたい」と思っているのに、「相手から避けられている」と感じるようなパターンです。
カウンセラーに対しても、投影が生じることがあるでしょう。本当は、「自分のことが嫌いで認められない」という思いを自分抱いている場面なのに、”カウンセラーが自分を嫌っているように感じる”と解釈してしまうことがあります。
ただ、投影は無意識的に生じるため、「自分のことが嫌いで認められない」という思いは自覚されにくいでしょう。医師やカウンセラーへの敵意や恐怖感としてしか体験されず、治療が進まないこともあります。投影は、置き換えよりも扱いが難しいプロセスだといえるでしょう。
メカニズム③:投影性同一化
投影性同一化は、投影と同じように、自分にとって受け入れがたい感情を他人が持っているように思うことです。感情を持っていると思い込ませるように相手を操作する点が、投影とは異なります。
カウンセリングは心を探求していく作業であるため、自分の弱さに向き合う瞬間があります。弱さに直面できず、投影性同一化が活発になってしまうということがあるでしょう。
投影性同一化が生じるのは、自分の「良い部分」と「悪い部分」を統合できておらず、悪い部分を他者に移し替えることが原因です。自分の中には良い部分だけが残り、心のバランスを保つという目的があります。
例えば、「自分は無能だ」、あるいは自分に対する自信のなさを持っている場合、「無能」という悪い部分をカウンセラーに押しつけます。納得いかないことや、些細な間違いを指摘し、「カウンセラーが無能だ」とすることで心のバランスを保とうとするのです。
医師やカウンセラーに特別な感情を抱くのはおかしいことではない
カウンセラーに特別な感情を向けることは、転移と呼ばれる現象で、治療を行う上で生じるものです。医師やカウンセラーと相談者の関係も、1つの人間関係の形だといえます。人間同士の交流では、何らかの感情が生じるのは特別なことではありません。
診察やカウンセリングを受けている方の中で、「こんな気持ちになっていいのか?」と悩んでしまう場合は、もしかしたら「転移」かもしれません、「転移」という性質を知ることで、より自分を理解するためのヒントが隠されているかもしれません。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など
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