学習性無力感とは何か「もう頑張っても無駄だ」と感じる方へ

学習性無力感とは

• 「何度やってもうまくいかない」
• 「努力しても状況が変わらない」

このような経験を繰り返すと、人は次第に行動する意欲を失っていきます。

心理学ではこの状態を「学習性無力感（learned helplessness）」と呼びます。これは、長期間のストレスや失敗体験によって、「どうせ何をしても無駄だ」という認知が形成される心の現象です。

学習性無力感は、うつ病などの精神疾患と深く関わっており、精神医療の現場でも重要な概念の一つとされています。

学習性無力感のメカニズム

学習性無力感は、心理学者マーティン・セリグマンが行った実験によって提唱されました。

犬に避けようのない電気ショックを与えると、後に逃げられる状況でも犬は何も行動せず、ただ耐えるようになった。これが「無力感が学習される」現象の原点です。

人間の場合も同様で、以下のような経験が重なることで、無力感が固定化されやすくなります。

• 努力しても失敗が続く
• 否定や批判ばかり受ける
• 環境を変えようとしても改善しない

このような状況下で、「変えようとすること自体をあきらめる」ようになってしまいます。

学習性無力感が引き起こす問題

学習性無力感が定着すると、以下のような心理的・行動的変化が生じます。

行動の抑制

やっても無駄だという思考から、日常的な行動そのものが減少します。意欲低下、行動力の喪失が顕著になります。

自己評価の低下

「自分には能力がない」「価値がない」という否定的な自己イメージが形成されます。

感情の不安定化

抑うつ気分、不安、無気力、怒りの爆発など、情緒のコントロールが難しくなります。

対人関係の悪化

人に期待しなくなり、コミュニケーションを避ける傾向が強まります。孤立を深めやすくなります。

これらの状態が続くとうつ病や、発達障害・ASDの二次障害としての抑うつ状態や不安症状などを引き起こすことがあります。

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典型的な例

学校・教育の現場

何度やっても点数が上がらない、叱責ばかりされるといった環境で、子どもが学習意欲を失う。

職場

努力しても正当に評価されない、理不尽な要求が続くと、「何をしても意味がない」と考え、仕事に無関心になる。

家庭・対人関係

繰り返される家庭内トラブルや、助けを求めても改善されない人間関係により、感情表出や相談をやめてしまう。

対処法と回復の方向性

小さな成功体験を積む

達成感のある行動を少しずつ増やすことが、自己効力感（self-efficacy）の回復につながります。たとえば、「タスクを一つこなす」「予定通りに起床する」など、日常生活の中に手の届く目標を設定します。

認知の修正（認知行動療法）

「どうせ無理」「自分には価値がない」といった非合理的な思考パターンを、具体的な状況に即して検証し、柔軟な思考に書き換える心理療法が有効です。

周囲との接点を保つ

信頼できる人と最低限の関係性を保つことは、孤立や自責のループから抜け出す足がかりになります。無理に交流を広げる必要はなく、1対1の関係でも十分です。

医療的サポートを受ける

抑うつ症状や不安症状が強い場合、心療内科や精神科での適切な診断と治療が必要です。抗うつ薬などの薬物療法とあわせて、精神療法で対人関係や認知面に関する介入を、病状に応じて行います。

まとめ

学習性無力感は、特別な性格や個性によるものではなく、環境的・心理的な条件によって誰にでも生じ得る状態です。この無力感を放置すると、うつ病や不登校、職場での適応困難など、さまざまな生活機能の低下につながる可能性があります。

「何もする気が起きない」「どうせ何をしても変わらない」「不安感が継続している」といった無気力や自信喪失に関する症状は、認知面や行動の変化、心の不調から関連していることも少なくないのです。まずは体調へのケアや現状を整理するところから、ご一緒に始めてみませんか。

名古屋ひだまりこころクリニック名駅エスカ院は名古屋駅から徒歩1分の心療内科,精神科,メンタルクリニックです。お気軽にご相談くださいませ。

野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など