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場面緘黙とは?子どもの「話せない」背景と正しい支援のあり方

2025.09.262025.09.26

選択性緘黙症・場面緘黙症、不安障害・不安症

場面緘黙とは?子どもの「話せない」背景と正しい支援のあり方

はじめに

「家ではよく話すのに、学校では一言も声を出さない」。

子どもにそんな姿が見られると、親としては「恥ずかしがり屋なのだろう」「そのうち自然に話せるようになるはず」と考えてしまうかもしれません。しかし、その沈黙が続き、生活や学習に影響している場合、それは場面緘黙(ばめんかんもく)という不安症の可能性があります。

場面緘黙は単なる「人見知り」や「内気」とは異なり、心理的要因が複雑に関わる精神疾患の一つです。本記事では、その特徴、原因、診断基準、治療法、そして家庭でできる支援について、専門的な視点から詳しく解説します。

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場面緘黙とは何か

場面緘黙(Selective Mutism)は、安心できる環境では普通に話せるにもかかわらず、学校や公共の場といった緊張する状況で声が出なくなる状態を指します。この状態は単なる気分的な「沈黙」ではなく、本人の意思に反して言葉が出なくなる点に大きな特徴があります。

翻訳の違い ― 「場面緘黙」と「選択性緘黙」

英語ではいずれも Selective Mutism と表記されますが、翻訳には揺れがありました。

  • DSM-5(米国精神医学会、2014年):選択性緘黙
  • ICD-11(WHO、2023年):場面緘黙

「選択性」という言葉は「子どもが自分で話す・話さないを選んでいる」と誤解を招きやすいため、現在では「場面」という表現が一般的になりつつあります。

発症年齢と経過

発症は多くの場合、2~5歳ごろに見られます。ただし、診断が明確になるのは小学校入学以降が多いとされています。入学や進級、転校など、社会的な場面が増える時期に症状が顕在化するケースが目立ちます。

経過の特徴

  • 発症初期は「恥ずかしがり屋」と見られがち
  • 成長とともに改善する子もいるが、未治療では長期化することもある
  • 青年期まで持ち越すと、社交不安障害やうつ病といった二次的な問題につながる可能性がある

場面緘黙の原因

場面緘黙は「性格的要因」と「環境要因」の両方が影響し合うことで発症すると考えられています。

個人要因

  • 不安傾向が強い気質➡些細なことでも緊張しやすい
  • 言語発達の遅れ➡表現力不足が不安を増幅させる
  • 吃音や構音障害➡話すこと自体に苦手意識を持ちやすい
  • 自閉スペクトラム症(ASD)➡社会的コミュニケーションの難しさを背景に持つ場合がある

環境要因

  • 高圧的または厳格な大人との関わり
  • 子どもが話さなくても日常が成立してしまう状況(「代弁」や「配慮されすぎ」など)
  • 失敗を過度に恐れる文化的・家庭的な価値観

これらが重なることで、子どもにとって「声を出すこと」の心理的ハードルが高くなり、沈黙が固定化します。

診断基準

DSM-5では以下の条件が示されています。

  1. 家庭などでは話せるが、学校や公共の場など「話すことが期待される状況」で一貫して話せない。
  2. 学業や社会生活、対人関係に明らかな支障をきたしている。
  3. 少なくとも1か月以上続く(ただし、入学直後の1か月は含まない)。
  4. 言語能力の不足や快適さの欠如によるものではない。
  5. 自閉スペクトラム症や統合失調症など他の疾患で説明できない。

この基準を満たす場合に、場面緘黙と診断されます。

場面緘黙と関連する疾患

場面緘黙は、しばしば社交不安障害との関連が指摘されます。人前で話すことへの極端な恐怖や緊張は両者に共通しており、併存率も高いとされています。

また、放置すると以下の二次障害が起こる可能性があります。

  • 不登校や学業不振
  • いじめのリスク増大
  • 青年期以降のうつ病、不安症

治療と支援の方法

認知行動療法(CBT)

有効性が認められているものとして認知行動療法があります。段階的に「話す経験」を積み重ねることで、不安を和らげていきます。例としては、

  • 家族との会話➡録音して学校で聞かせる
  • 教師に一言だけ答える練習
  • 少人数グループでの発話練習

といった小さなステップから始めます。

家族への心理教育

親が「無理に話させようとしない」「話さなくても代弁しすぎない」など、適切な関わり方を学ぶことが重要です。

薬物療法

重度の場合には、症状や状態に応じて抗不安薬やSSRIが併用されることもあります。ただし小児期の投薬は慎重に判断される必要があります。

親ができるサポート

家庭でできる対応としては、以下のようなものがあります。

  1. 子どもの困りごとを聞く
    「学校でどんなときに困る?」など、安心できる場で本人の気持ちを言葉にしてもらう。
  2. 安心できる環境を整える
    学校生活での見通しを一緒に立てたり、教師に支援を依頼したりする。
  3. 「話せない」ことを責めない
    努力不足ではなく、不安症状の一部であることを理解する。

場面緘黙の予後

早期に発見し、適切な支援を受ければ改善の見込みは高いとされています。研究では、3年以内に大多数が寛解する例も報告されています。しかし、長期間放置された場合、思春期以降に不登校やうつ病などを引き起こすリスクが上がります。

【まとめ】早期対応が未来を変える

家庭、学校、医療が協力し合い、子どもが安心して「声を取り戻せる」環境を整えること、それが場面緘黙へのケアの一つでもあります。

場面緘黙は「そのうち治る」と軽視されやすい一方で、放置すれば深刻な二次障害につながる可能性のある疾患であり、子どもが学校で話せない姿を見たら、「性格」や「恥ずかしがり屋」で片づけず、専門家に相談することが大切です。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など

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